2017年11月29日水曜日

退出者 8 - 6

 遺伝子管理局と保安課の合同訓練施設には、射撃場がある。ドームは生命を創造する施設なので人殺しの方法を教えたりしない。しかし、外の世界で接触する人間には悪意があると想定して、護身術はみっちり教える。ドームの射撃場は麻痺光線銃の使用と実弾射撃の両方を教える。実際に持たせるのは光線銃の方だが、外の敵が使うのは実弾の銃であることを考慮して、敵の武器がどんな物なのかも教えておくのだ。
 ポール・レイン・ドーマーとリュック・ニュカネン・ドーマーは犬猿の仲だが、同じチームで同じ地位にいるので、一緒に訓練を受ける。当然ながら競争心が半端でなく、2人は互いを敵とする仮想戦闘エリアで模擬弾を使った銃撃戦訓練を行った。コンピューターが作り出す市街地の3次元模型の中で撃ち合うのだ。当たっても痛くないが、服は汚れる。
 1時間後、彼等はヘトヘトになってゴールに入った。彼等の汚れ具合を見て、教官が笑った。

「馬鹿にムキになって撃ち合っていたな。」
「実戦を経験したばかりですからね。」

とレインが生意気にも言い返した。ニュカネンは黙って銃を係に返却しながら壁の成績表をちらりと見上げた。そして徐に呟いた。

「やっぱりルパートを超えられない・・・」

 彼等の10歳先輩の局員で、4年前に高得点を出した者がいた。遺伝子管理局と保安課の若いドーマー達は彼を越えようと何度も挑戦するのだが、未だその上の得点を出した者がいない。
 レインはフンと言ったが、彼はルパートの点数にあと20点まで迫っていた。必ず抜いてやる、と心に決めているのだ。
 教官が励ます目的で言った。

「ルパート・ドーマーも目標があって頑張ったのだ。彼もその目標をまだ抜けないでいる。君等も努力を続ければ、ルパートの上へ行けるぞ。」

 レインが振り返った。

「ルパート・ドーマーより上がいるのですか?」
「ああ。」

と教官がニヤリと笑った。

「57年間破られていない記録がある。破りようがないな、満点だったから。」
「満点?!」

 レインとニュカネンが同時に声を上げた。敵を全部倒して、一発も被弾せず、制限時間内に仮想人質を救出してゴールに入ったと言うことだ。
 レインは教官を見つめた。この教官は51歳だ。大記録が樹立された瞬間を見た訳ではない。生まれていなかったのだから。

「本当に? でもどうして記録表に載っていないのですか?」
「壁に表示していないだけで、記録はちゃんと残っている。本人が7年前にその記録に再挑戦してみたが、満点には届かなかったので、表示を希望しないのだ。」

 ニュカネンが教官が現在形を使ったことに気がついた。

「ちょっと待って下さい、57年前の記録に、本人が7年前に再挑戦したのですか?」
「ああ、50年ぶりにここへ足を運ばれたのだ。」

 レインが呟いた。

「ローガン・ハイネ・ドーマーですか?」
「他にいるかい?」

 教官が教育用チップを出した。

「貸し出し禁止なので、ここのロビーで見るが良い。57年前当時の記録映像だ。我々はこれを見て勉強した。彼は実戦ではないので参考にならないと謙遜しているが、実戦経験者でも彼の動きを見て学んだのだ。良いものは良いと素直に受け入れることが大切だな。」
「拝見します。」

 レインがチップを受け取った時、ニュカネンの端末にメッセージが着信した。彼はそれを見て、レインに断った。

「チーフから局長室に来いと連絡が来た。」
「局長室なら遅れるな、局長が許して下さっても、チーフは許してくれないぞ。」

 レインの脅しに、ニュカネンはチェっと呟いた。1人だけ呼ばれるのは、不安だったのだ。