「お帰りなさい、パーシバル博士!」
ゲート消毒班のドーマーが明るい声で挨拶した。「いらっしゃい」ではなく「お帰り」だ。ヘンリー・パーシバルはいつもこの挨拶を聞くと嬉しくなる。自分はまだこのアメリカ・ドームの一員として覚えてもらっているのだな、と思う。
消毒を終えると彼は荷物を受け取り、医療区へ向かった。すれ違うドーマー達が皆笑顔で挨拶してくれる。途中で出産管理区へ通じるゲートの前を通った。向こうは女性の世界だ。そしてキーラ・セドウィックがいる。彼女は退官ぎりぎり迄仕事をしているのだ。1度彼女が働いている姿を見てみたいが、規則が許さない。
パーシバルは医療区長の部屋へ挨拶に行った。いつもの回診の習慣だが、今回は少し違った。サム・コートニー医療区長が笑顔で彼をハグした。
「この幸せ者! 遂に我らの女帝をかっさらいに来たか!」
「申し訳ありません、重力さえなければ、ここで愛の巣を設けるのですがね。」
コートニーが彼の背を手のひらでバンバンと叩いた。
「ローガン・ハイネには気をつけろ。近頃父性が芽生えたみたいで、男がセドウィックに近づくと牙を剥いて威嚇するんだ。」
はははと笑ってから、パーシバルは医師の言葉が持つ意味に気が付いた。彼はコートニーから身を離した。
「父性? ドーマーに父性ですか?」
「そうだ。もう隠しようがないと言うか、みんな気が付いてしまっている。誰の目から見ても、ハイネの振る舞いは娘を守ろうとする父親の行動だ。」
「キーラは?」
「娘だな。地球から追放されても恐くないから、堂々としたものだ。」
「博士、貴方はどう思われるのです? あの2人は親子ですか?」
コートニーが彼をじっと見つめた。
「君は真実を知っているのだろう? 私は敢えて聞かないが、ハイネは彼女を遺伝子を共有するコロニー人ではなく、我が子として見ているようだ。」
「先月来た時はそうは見えなかった・・・」
「突然目覚めたのかも知れない。」
「しかし、それは拙いですよ。キーラの母親が法律を破ったことを世間に公表する様なものだ。」
「とっくの昔に時効になっているがね。」
医療区長は時計を見た。
「そろそろ患者が来る頃じゃないか、パーシバル博士。さっさと仕事を終わらせてゆっくり独身最後の夜を楽しみ給え。」
パーシバルは医療区長の執務室から追い出された。仕方なく神経科の診察室に行った。
ドアを開き、部屋の準備をしている看護師に挨拶して椅子に座った。独身最後の日と言う実感はなかった。結婚してもべったりくっついて生活する訳ではない。彼女は月で産科医の仕事に就く。地球で30年も働いたので、各コロニーの大病院や研究施設から引く手あまただったのだ。彼女はパーシバルが働く地球人類復活委員会本部に近い病院で働くことに決めた。実家がある火星コロニーに帰るつもりはなかった。地球に一番近い天体から地球を見ていたかったのだ。
ゲート消毒班のドーマーが明るい声で挨拶した。「いらっしゃい」ではなく「お帰り」だ。ヘンリー・パーシバルはいつもこの挨拶を聞くと嬉しくなる。自分はまだこのアメリカ・ドームの一員として覚えてもらっているのだな、と思う。
消毒を終えると彼は荷物を受け取り、医療区へ向かった。すれ違うドーマー達が皆笑顔で挨拶してくれる。途中で出産管理区へ通じるゲートの前を通った。向こうは女性の世界だ。そしてキーラ・セドウィックがいる。彼女は退官ぎりぎり迄仕事をしているのだ。1度彼女が働いている姿を見てみたいが、規則が許さない。
パーシバルは医療区長の部屋へ挨拶に行った。いつもの回診の習慣だが、今回は少し違った。サム・コートニー医療区長が笑顔で彼をハグした。
「この幸せ者! 遂に我らの女帝をかっさらいに来たか!」
「申し訳ありません、重力さえなければ、ここで愛の巣を設けるのですがね。」
コートニーが彼の背を手のひらでバンバンと叩いた。
「ローガン・ハイネには気をつけろ。近頃父性が芽生えたみたいで、男がセドウィックに近づくと牙を剥いて威嚇するんだ。」
はははと笑ってから、パーシバルは医師の言葉が持つ意味に気が付いた。彼はコートニーから身を離した。
「父性? ドーマーに父性ですか?」
「そうだ。もう隠しようがないと言うか、みんな気が付いてしまっている。誰の目から見ても、ハイネの振る舞いは娘を守ろうとする父親の行動だ。」
「キーラは?」
「娘だな。地球から追放されても恐くないから、堂々としたものだ。」
「博士、貴方はどう思われるのです? あの2人は親子ですか?」
コートニーが彼をじっと見つめた。
「君は真実を知っているのだろう? 私は敢えて聞かないが、ハイネは彼女を遺伝子を共有するコロニー人ではなく、我が子として見ているようだ。」
「先月来た時はそうは見えなかった・・・」
「突然目覚めたのかも知れない。」
「しかし、それは拙いですよ。キーラの母親が法律を破ったことを世間に公表する様なものだ。」
「とっくの昔に時効になっているがね。」
医療区長は時計を見た。
「そろそろ患者が来る頃じゃないか、パーシバル博士。さっさと仕事を終わらせてゆっくり独身最後の夜を楽しみ給え。」
パーシバルは医療区長の執務室から追い出された。仕方なく神経科の診察室に行った。
ドアを開き、部屋の準備をしている看護師に挨拶して椅子に座った。独身最後の日と言う実感はなかった。結婚してもべったりくっついて生活する訳ではない。彼女は月で産科医の仕事に就く。地球で30年も働いたので、各コロニーの大病院や研究施設から引く手あまただったのだ。彼女はパーシバルが働く地球人類復活委員会本部に近い病院で働くことに決めた。実家がある火星コロニーに帰るつもりはなかった。地球に一番近い天体から地球を見ていたかったのだ。