2017年11月28日火曜日

退出者 8 - 5

 恋愛を許可しない権利は誰にもない、とユリアン・リプリー長官は信じている。しかし、対象がドーマーとなると考え込んでしまった。ドーマーは優秀な遺伝子をキープする目的で親から取り上げ、ドーム内で大切に育てている地球人だ。恋をしたからと言って、あっさり外の世界に戻してやる訳にいかない。それに、遺伝子管理局の局員と維持班の外勤のドーマーだけが外の女性と恋をする特権を持っている様にも見えるのが、気に入らなかった。

「どのぐらいリュック・ニュカネン・ドーマーは真剣なのだね? 外に出た途端に女性と仲違いして別れる可能性もあるだろう?」
「そんなことは、実際に彼を外に出してやらなければわかりませんよ。」

 まだ何も決まったことではないのに、ケンウッドとリプリーは真剣に話し合った。1人の男の人生を決めるのだ。当事者が不在で話し合っても埒が明かないのだが・・・。

「ハイネは承知したのか?」
「貴方次第だと言う意見です。ニュカネンが希望すれば反対しないつもりです。」
「要するに、局長は本人次第、長官次第で、丸投げしてくれた訳だな?」
「それが、ローガン・ハイネのいつものやり方ですよ。彼は他人の人生に口を出したがらない。」

 ドーマーは生まれる前から人生を決められてしまう。ローガン・ハイネ・ドーマーに到っては、職業も地位も誕生前に決まっていたのだ。だからハイネは他人の私生活には口を出したがらない。部下の人生は部下のものだから上司が決める権利はないと彼は思っている。ドーム、即ちコロニー人達がリュック・ニュカネンの人生にどんな形で介入するのか、彼は傍観するだけだ。反対しないが賛成もしない。

 否、彼はドームがニュカネンを出さないと言えば、出せと言うかも知れない。

 ケンウッドはふとそう思った。ハイネは部屋兄弟のダニエル・オライオンが外の世界で暮らそうと提案した時、ついて行こうとした。ドームがオライオン1人を外へ出すと決めた時、オライオンに留まってくれとは言わなかった。オライオンが選んだ道を行かせた。そして彼自身は後を追って脱走を図り、失敗した。

 ハイネは今でも外に出たいのではないのか? だが彼は既に自身の肉体が外の世界の空気に耐えられないことを知っている。だから彼は若者達が出て行くことを引き止めない。

 リプリーが物思いに沈んだケンウッドを眺めて言った。

「ではハイネ局長に伝えてくれないか? 私は局長の判断に任せる、と。」

 ケンウッドが顔を上げて長官を見ると、リプリーはニヤリと笑った。事なかれ主義の彼らしい結論の出し方だった。

「ドーマーの人生はドーマー達に任せる。要は、出張所をどんな人物に任せるか、と言うことじゃなかったかね? 出張所の管理者がドーマーだろうが元ドーマーだろうが、遺伝子管理局の任務を着実にこなせる人間であれば、誰もがハッピーになれると思うが、どうだろう?」