午後、ケンウッドは少し遅めの昼食を取りに食堂へ行った。一般食堂に行きたかったが、怪我をしていることをドーマー達に見られたくなかった。それに昼食後にまた診察を受けることになっていたので医療区に近い所で食事を摂ることにしたのだ。
中央研究所の食堂は昼休みが終わろうとしていたので空いていた。一般食堂の様に何時昼休みが終わるのかわからない程絶えず人が来ると言うことがないのだ。ケンウッドがトレイを左手で持って、軽い物を取ろうとしていると、誰かが横からトレイを支えた。振り向くとハイネが居た。
「私がトレイを持っていますから、料理を取って下さい。」
「有り難う。」
ケンウッドは素直に礼を言って、食べたい物を取り、支払いを済ませてハイネが先に席を取っていたテーブルに行った。そこにはキーラ・セドウィックが居た。彼女がケンウッドを見て優しく微笑んだ。立ち上がり、椅子を引いてくれたので、ケンウッドは恐縮した。
「力が入らないだけで、普通に腕は動かせるのですよ。」
「では今日1日だけでも甘えて下さいな。」
彼女はハイネをちらりと見て言った。
「貴方が怪我をなさったと私に教えてくれた時の局長は、かなりうろたえていましたのよ。」
「そんなに私は取り乱していたか?」
とハイネが驚いて見せたので、ケンウッドとキーラは笑った。
キーラがセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンはどんな所でしたかと尋ねたので、食事をしながらケンウッドは事件が起きる迄の楽しかった旅の話を聞かせた。リプリーに話したこととそんなに違いがなかったが、ここでは同行した2人のドーマーの様子も語った。ハイネは部下の行動を知りたかっただろうし、キーラはリュック・ニュカネンが誕生した時に取り上げたのだ。ポール・レインは担当ではなかったが、それでも生まれた時からずっと成長を見守って来た子供達の1人だ。
「喧嘩すると言っても、あの子達は憎み合っているのではありませんから、放って置いてよろしいのよ。」
と彼女は笑った。
「性格の違いだけですから。業務に支障が出る喧嘩ではありませんでしたでしょ?」
「ええ、仕事に差し支えると思ったら、どちらかが先に引きますね。互いに手加減は心得ている様子です。」
するとハイネがケンウッドに尋ねた。
「博士は彼等の何を観察されたかったのですか?」
「私が彼等を観察?」
「数日前から博士はリュック・ニュカネンを観察されておられた様ですが?」
むむ・・・鋭い・・・
ケンウッドは時々ハイネに1本取られたと感じる。相手は84年生きている人生のベテランだ。「執政官は全てのドーマーの親として振る舞え」と言う地球人類復活委員会の原則が空しく感じられる一瞬だ。
気が付くとキーラ・セドウィックも彼を見つめていた。ハイネ父娘が彼に真実を語れと目で告げていた。
ケンウッドはテーブルの周囲を見廻した。近くには誰もいない。空いている食堂に、数人が離れたテーブルで食事をしているだけだった。静かなので声が響きそうだ。
ケンウッドは2人に言った。
「出来れば他の人間の耳には入れたくないのだが・・・」
ハイネがキーラを見た。彼女は肩をすくめた。
「私は午後から仕事があります。博士のお話を私が聞いておくべきなのかどうか、それは局長の判断にお任せしますわ。悪いお話でないことを願っています。」
中央研究所の食堂は昼休みが終わろうとしていたので空いていた。一般食堂の様に何時昼休みが終わるのかわからない程絶えず人が来ると言うことがないのだ。ケンウッドがトレイを左手で持って、軽い物を取ろうとしていると、誰かが横からトレイを支えた。振り向くとハイネが居た。
「私がトレイを持っていますから、料理を取って下さい。」
「有り難う。」
ケンウッドは素直に礼を言って、食べたい物を取り、支払いを済ませてハイネが先に席を取っていたテーブルに行った。そこにはキーラ・セドウィックが居た。彼女がケンウッドを見て優しく微笑んだ。立ち上がり、椅子を引いてくれたので、ケンウッドは恐縮した。
「力が入らないだけで、普通に腕は動かせるのですよ。」
「では今日1日だけでも甘えて下さいな。」
彼女はハイネをちらりと見て言った。
「貴方が怪我をなさったと私に教えてくれた時の局長は、かなりうろたえていましたのよ。」
「そんなに私は取り乱していたか?」
とハイネが驚いて見せたので、ケンウッドとキーラは笑った。
キーラがセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンはどんな所でしたかと尋ねたので、食事をしながらケンウッドは事件が起きる迄の楽しかった旅の話を聞かせた。リプリーに話したこととそんなに違いがなかったが、ここでは同行した2人のドーマーの様子も語った。ハイネは部下の行動を知りたかっただろうし、キーラはリュック・ニュカネンが誕生した時に取り上げたのだ。ポール・レインは担当ではなかったが、それでも生まれた時からずっと成長を見守って来た子供達の1人だ。
「喧嘩すると言っても、あの子達は憎み合っているのではありませんから、放って置いてよろしいのよ。」
と彼女は笑った。
「性格の違いだけですから。業務に支障が出る喧嘩ではありませんでしたでしょ?」
「ええ、仕事に差し支えると思ったら、どちらかが先に引きますね。互いに手加減は心得ている様子です。」
するとハイネがケンウッドに尋ねた。
「博士は彼等の何を観察されたかったのですか?」
「私が彼等を観察?」
「数日前から博士はリュック・ニュカネンを観察されておられた様ですが?」
むむ・・・鋭い・・・
ケンウッドは時々ハイネに1本取られたと感じる。相手は84年生きている人生のベテランだ。「執政官は全てのドーマーの親として振る舞え」と言う地球人類復活委員会の原則が空しく感じられる一瞬だ。
気が付くとキーラ・セドウィックも彼を見つめていた。ハイネ父娘が彼に真実を語れと目で告げていた。
ケンウッドはテーブルの周囲を見廻した。近くには誰もいない。空いている食堂に、数人が離れたテーブルで食事をしているだけだった。静かなので声が響きそうだ。
ケンウッドは2人に言った。
「出来れば他の人間の耳には入れたくないのだが・・・」
ハイネがキーラを見た。彼女は肩をすくめた。
「私は午後から仕事があります。博士のお話を私が聞いておくべきなのかどうか、それは局長の判断にお任せしますわ。悪いお話でないことを願っています。」