支局のヘリコプターは僻地の妊産婦の他に病人の搬送などにも使用される。遺伝子管理局所属ではあるが、局員がメーカー捜査や手入れに使う機会は少ない。パイロットも戦闘訓練を受けていないので、危険なフライトに使えない。ワグナーは彼が操縦することでいざと言う時にヘリで出動出来ると考えたのだ。
ハイネはケンウッドの心配をあっさり無視した。
「了解した。航空班に私から話をつけておくから、君は先に『通過』を済ませなさい。航空班の訓練は厳しいから、局員業務は休むことになるぞ。代行してくれる者を内勤業務者から選んでもらえるよう、班チーフに頼むと良い。」
「チームリーダーには?」
「耳に入れておいた方が良いだろうが、それは『通過』を終えてからで良い。パイロットを養成する案を出したら局長が乗り気になったと言えば良いだろう。事実なのだから。」
2つも要望が通ったので、ワグナーは満面の笑みで喜びを表現した。ケンウッドは微笑ましく思いながら、視野の隅でニュカネンがもじもじしているのを見た。局長に要望を出すなら今のうちだぞ、と心の中で声援を送った。するとニュカネンとレインがほぼ同時に、「局長」と声を掛けた。そして2人は互いの顔を見た。どっちが先かと目と目で対決しようとした瞬間・・・
「あらぁ、ここにいらしたのね!」
女性の明るい声が響き、出産管理区副区長のアイダ・サヤカ博士がいきなり男達の前に姿を現した。彼女はハイネ局長に声を掛けたのだが、ケンウッド副長官に気が付くと頭を軽く下げた。
「副長官、お加減はよろしいの?」
ケンウッドの負傷のニュースは出産管理区に既に拡散されているらしい。ゲートに近いので外からの情報が真っ先に伝わるのだ。ケンウッドは苦笑して右腕を持ち上げて見せた。
「この通り、ちゃんと腕は付いていますし、動きます。お気遣い有り難うございます。」
「大きな怪我でなくて良かったですね。」
彼女はドーマー達に視線を向けた。
「貴方達が副長官をお守りしてくれたのね?」
「守ったのはリュック・ニュカネンです。」
レインが素早く反応した。この男はこう言う気配りが出来る。手柄への賞賛は正しい者へ送られるべきだと考えるのだ。ニュカネンも負けていない。
「犯人を捕まえたのはポール・レインです。」
アイダ博士は優しく微笑んだ。キーラ・セドウィック博士と余り年齢は違わないのだが、彼女の方が少し年上に見える。やはりキーラにはハイネの遺伝子が少し影響しているのではないか、とケンウッドはぼんやりと考えた。
アイダ博士はその間にジムに現れた目的を果たそうとした。彼女はハイネの手を取った。
「約束の時間を半時間も過ぎていますわ。早くお出でになって。」
ハイネが困惑の表情を浮かべた。
「約束? それは明日でなかったですか?」
「いいえ、今日です。」
ハイネは端末を出そうとして、運動着なので手元にないことを思い出した。端末は更衣室のロッカーの中だ。
「申し訳ありません、年寄りなもので、忘れていました。」
失敗した時のハイネの奥の手だ。ドームのどの執政官よりも明晰な頭脳を持っていながら、都合が悪くなると耄碌爺さんのふりをするのだ。
アイダ博士は彼の手を掴んで歩き出した。ハイネは仕方なく引っ張られて行く・・・。
彼女がケンウッドを振り返った。
「副長官、申し訳ありませんが、こちらが先約ですので、遺伝子管理局長拉致させて頂きます。お夕食の時間にはお返ししますので。」
呆気にとられているケンウッドと若いドーマー達を残してハイネは攫われていった。
ハイネはケンウッドの心配をあっさり無視した。
「了解した。航空班に私から話をつけておくから、君は先に『通過』を済ませなさい。航空班の訓練は厳しいから、局員業務は休むことになるぞ。代行してくれる者を内勤業務者から選んでもらえるよう、班チーフに頼むと良い。」
「チームリーダーには?」
「耳に入れておいた方が良いだろうが、それは『通過』を終えてからで良い。パイロットを養成する案を出したら局長が乗り気になったと言えば良いだろう。事実なのだから。」
2つも要望が通ったので、ワグナーは満面の笑みで喜びを表現した。ケンウッドは微笑ましく思いながら、視野の隅でニュカネンがもじもじしているのを見た。局長に要望を出すなら今のうちだぞ、と心の中で声援を送った。するとニュカネンとレインがほぼ同時に、「局長」と声を掛けた。そして2人は互いの顔を見た。どっちが先かと目と目で対決しようとした瞬間・・・
「あらぁ、ここにいらしたのね!」
女性の明るい声が響き、出産管理区副区長のアイダ・サヤカ博士がいきなり男達の前に姿を現した。彼女はハイネ局長に声を掛けたのだが、ケンウッド副長官に気が付くと頭を軽く下げた。
「副長官、お加減はよろしいの?」
ケンウッドの負傷のニュースは出産管理区に既に拡散されているらしい。ゲートに近いので外からの情報が真っ先に伝わるのだ。ケンウッドは苦笑して右腕を持ち上げて見せた。
「この通り、ちゃんと腕は付いていますし、動きます。お気遣い有り難うございます。」
「大きな怪我でなくて良かったですね。」
彼女はドーマー達に視線を向けた。
「貴方達が副長官をお守りしてくれたのね?」
「守ったのはリュック・ニュカネンです。」
レインが素早く反応した。この男はこう言う気配りが出来る。手柄への賞賛は正しい者へ送られるべきだと考えるのだ。ニュカネンも負けていない。
「犯人を捕まえたのはポール・レインです。」
アイダ博士は優しく微笑んだ。キーラ・セドウィック博士と余り年齢は違わないのだが、彼女の方が少し年上に見える。やはりキーラにはハイネの遺伝子が少し影響しているのではないか、とケンウッドはぼんやりと考えた。
アイダ博士はその間にジムに現れた目的を果たそうとした。彼女はハイネの手を取った。
「約束の時間を半時間も過ぎていますわ。早くお出でになって。」
ハイネが困惑の表情を浮かべた。
「約束? それは明日でなかったですか?」
「いいえ、今日です。」
ハイネは端末を出そうとして、運動着なので手元にないことを思い出した。端末は更衣室のロッカーの中だ。
「申し訳ありません、年寄りなもので、忘れていました。」
失敗した時のハイネの奥の手だ。ドームのどの執政官よりも明晰な頭脳を持っていながら、都合が悪くなると耄碌爺さんのふりをするのだ。
アイダ博士は彼の手を掴んで歩き出した。ハイネは仕方なく引っ張られて行く・・・。
彼女がケンウッドを振り返った。
「副長官、申し訳ありませんが、こちらが先約ですので、遺伝子管理局長拉致させて頂きます。お夕食の時間にはお返ししますので。」
呆気にとられているケンウッドと若いドーマー達を残してハイネは攫われていった。