結婚式の翌日、ケンウッドとアイダ・サヤカは地球に戻った。パーシバル一家はもっとゆっくりしていけと言ってくれたのだが、ケンウッドは「私は兎も角、アイダ博士がいなければ地球は滅びます」と言って辞退した。
ドームに戻ると仕事が山のように待っていて、結婚式の様子を聞きたがる執政官仲間や助手達の相手をしてやる時間がなかった。やっとひと段落つけたのは、3日後だった。
少し遅い時刻に一般食堂で夕食を摂った。時間を惜しんで中央研究所の食堂でばかり食べていたので、久しぶりにドーマー達の顔を見て、ホッとした。結婚式はどうだったのかと聞かれ、彼はチップを助手に渡した。
「ヴィデオ録画してあるのをもらって来た。図書館で見なさい。ドーマーに地球外の情報を与えてはいけないと規則にあるが、これは構わないと地球人類復活委員会に許可をもらってある。家族と言うものが写っているが、君達は映画で十分見て知っているだろうからね。」
深夜になって、ケンウッドは運動施設の片隅にあるジャグジーに浸かった。温かい湯に浸かってぼーっとしていると、ローガン・ハイネとヤマザキ・ケンタロウが来た。3人の男達は湯煙の向こうのドームの天井を暫く黙って眺めていた。
やがてハイネが口を開いた。
「あの動画は月で撮影されたのですか?」
「否、火星だよ。」
ケンウッドは右隣に座っている彼をちらりと見た。
「君もあの動画を見たんだね? キーラは綺麗だったろう?」
ハイネはただ笑っただけだった。ヤマザキが「僕も生で見たかったなぁ」とぼやいた。彼は「通過」の患者を5名抱えていたので、動けなかったのだ。
「ヘンリーはセドウィック家の人々と仲良くやっていけそうだね。」
「あの男はどこでも上手くやっていけるさ。だが家族持ちになったら、あまり巡回に出なくなるだろうね。」
「それで良いのですよ。」
とハイネが呟いた。
「遠い星に向かって旅に出た者をひたすら待ち続けるなんて、辛いだけですから。」
ケンウッドは思わず彼を見た。ヤマザキも体を傾けてケンウッドを挟んだ反対側から彼を見た。
ハイネはシラっとして続けた。
「出張所にする物件探しに出たリュック・ニュカネンが4日経っても戻らないのです。キーラが退官した時、彼は泣いてしまいましてね、レインにからかわれたものですから、ちょっと拗ねていたそうです。発信機は彼がセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンにいると告げていますから、私はそんなに心配しておりませんが、ベイル・ドーマーはカンカンで・・・」
娘の新婚家庭の話から強引に仕事の話にすり替えたハイネに、ヤマザキが呆れた。
「君は情愛の話を出来ないのか、ハイネ?」
「情愛?」
「だから・・・」
「湯に長く浸かり過ぎたようです。」
ハイネは薄っすらピンク色に染まった体を湯から出した。
「明日は班チーフ会議を開くので、今夜はこれで失礼します。おやすみなさい。」
さっさと出て行ってしまったので、ヤマザキとケンウッドは顔を見合わせた。
「あまりキーラの話をしない方が良いのかも知れないな。」
とケンウッドが反省した。ヤマザキも首を振った。
「彼女の希望通り子供ができたら、子供がある程度大きくなる迄、居住コロニーから出られないだろうからな。春分祭にも来られない。ハイネをいじめるのは、もうよそう。」
ドームに戻ると仕事が山のように待っていて、結婚式の様子を聞きたがる執政官仲間や助手達の相手をしてやる時間がなかった。やっとひと段落つけたのは、3日後だった。
少し遅い時刻に一般食堂で夕食を摂った。時間を惜しんで中央研究所の食堂でばかり食べていたので、久しぶりにドーマー達の顔を見て、ホッとした。結婚式はどうだったのかと聞かれ、彼はチップを助手に渡した。
「ヴィデオ録画してあるのをもらって来た。図書館で見なさい。ドーマーに地球外の情報を与えてはいけないと規則にあるが、これは構わないと地球人類復活委員会に許可をもらってある。家族と言うものが写っているが、君達は映画で十分見て知っているだろうからね。」
深夜になって、ケンウッドは運動施設の片隅にあるジャグジーに浸かった。温かい湯に浸かってぼーっとしていると、ローガン・ハイネとヤマザキ・ケンタロウが来た。3人の男達は湯煙の向こうのドームの天井を暫く黙って眺めていた。
やがてハイネが口を開いた。
「あの動画は月で撮影されたのですか?」
「否、火星だよ。」
ケンウッドは右隣に座っている彼をちらりと見た。
「君もあの動画を見たんだね? キーラは綺麗だったろう?」
ハイネはただ笑っただけだった。ヤマザキが「僕も生で見たかったなぁ」とぼやいた。彼は「通過」の患者を5名抱えていたので、動けなかったのだ。
「ヘンリーはセドウィック家の人々と仲良くやっていけそうだね。」
「あの男はどこでも上手くやっていけるさ。だが家族持ちになったら、あまり巡回に出なくなるだろうね。」
「それで良いのですよ。」
とハイネが呟いた。
「遠い星に向かって旅に出た者をひたすら待ち続けるなんて、辛いだけですから。」
ケンウッドは思わず彼を見た。ヤマザキも体を傾けてケンウッドを挟んだ反対側から彼を見た。
ハイネはシラっとして続けた。
「出張所にする物件探しに出たリュック・ニュカネンが4日経っても戻らないのです。キーラが退官した時、彼は泣いてしまいましてね、レインにからかわれたものですから、ちょっと拗ねていたそうです。発信機は彼がセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンにいると告げていますから、私はそんなに心配しておりませんが、ベイル・ドーマーはカンカンで・・・」
娘の新婚家庭の話から強引に仕事の話にすり替えたハイネに、ヤマザキが呆れた。
「君は情愛の話を出来ないのか、ハイネ?」
「情愛?」
「だから・・・」
「湯に長く浸かり過ぎたようです。」
ハイネは薄っすらピンク色に染まった体を湯から出した。
「明日は班チーフ会議を開くので、今夜はこれで失礼します。おやすみなさい。」
さっさと出て行ってしまったので、ヤマザキとケンウッドは顔を見合わせた。
「あまりキーラの話をしない方が良いのかも知れないな。」
とケンウッドが反省した。ヤマザキも首を振った。
「彼女の希望通り子供ができたら、子供がある程度大きくなる迄、居住コロニーから出られないだろうからな。春分祭にも来られない。ハイネをいじめるのは、もうよそう。」