ウェディングアイルを歩く練習はハイネにとって「無駄」に思える行為だったが、アイダ・サヤカ博士はどうしても彼にそれをさせたがった。彼女はキーラ・セドウィックの代役を自ら買って出て、彼の腕にしがみつき、歩いて見せた。
「絶対にサヤカはハイネに触りたいだけなんだ。」
とヤマザキ・ケンタロウがブツブツ言った。久し振りのハイネのアパートでの酒宴でのことだ。その夜、初めてその酒宴に新メンバーが参加した。ハイネが殆ど強引に連れて来たので、ソファの上で小さくなって座っている彼に、ケンウッドがブランデーを勧めた。
「地球産のまともな酒だから、君の口にも合うさ。」
「有り難うございます。頂きます。」
グレゴリー・ペルラ・ドーマーは恐る恐るグラスに口を付けた。琥珀色の液体を口の中に流し込み、暫く目を閉じて味わってから呑み込んだ。彼がむせるのではないかと半ば期待していたコロニー人2人は、彼が平気な顔をしているのでがっかりした。
ハイネはキッチンでチーズやクラッカーやハムなどを皿に並べ、彩りがつまらないと独り言を呟いていた。それで彼は冷蔵庫に入っていた植物をひとつまみ皿の中央に盛りつけて客に出した。
「何だ、これ?」
「綺麗だが・・・食べ物なのか、ハイネ?」
元薬剤師ハイネはヤマザキの言葉に傷ついた様な顔をした。
「食べられないものを冷蔵庫に入れたりしません。」
ペルラ・ドーマーが苦笑してコロニー人達に教えてやった。
「ホウセンカです。園芸課で栽培していますよ。」
「見たことがないぞ。」
「それは、みなさんに行き渡る程の量を栽培している訳ではありませんので・・・」
コロニー人達に見つめられて、彼は説明を追加した。
「出産管理区で女性達をリラックスさせる為に食用花を作っているのです。」
「じゃぁ、ハイネが持っているのは、局長の特権か?」
「・・・そんなところです。」
ペルラ・ドーマーはボスの表情を伺った、ハイネは気が付かないふりをして、自身のグラスに酒を注ぎ入れた。ペルラ・ドーマーが尋ねた。
「私の他に何方がこちらへ招かれるのですか?」
「ドーマーでは君が初めてだ。」
「え?」
「エイブに声を掛けたが、3回誘って3回断られた。酔うと手元が狂うのが嫌なのだそうだ。」
「あの人は大工仕事命ですから・・・」
ヤマザキが質問した。
「グレゴリー、あちらの家では酒は飲めるのかい?」
ペルラ・ドーマーは「黄昏の家」の話をこちらの世界でして良いものか、ちょっと迷ってから、打ち明けても良い内容だと判断した。
「終末の家ですから、好きなだけ飲めます。」
「それで君は強いんだ・・・」
「別に私は飲んだくれている訳ではありません。」
「わかってるさ、君の性格なら、規則正しく暮らしているのだろうよ。」
「グレゴリー、ここにも外に漏らしてはいけない秘密があるんだ。」
ケンウッドの言葉に、ペルラ・ドーマーは室内を見廻した。見たこともない酒瓶がずらりと並んだ棚に取り囲まれている。
「局長がこんなコレクションをお持ちだとは存じませんでした。」
「口外しないでくれよ。ドーマーに飲酒を許したと知られたら、私は副長官を罷免される。」
「勿論です。こんな素晴らしい場所を他人に明かしたりしません。」
ヤマザキが彼を抱き締めて頬にキスをした。
「良いヤツだなぁ、君は!」
彼等は仕事の話はせずに、最近の若者の流行やら、火星コロニーで流行っているダンスの話や、テレビで見た地球の企業のCMやら、とりとめのない話をうだうだとして夜を過ごした。ペルラ・ドーマーは泊まるつもりはなかったのだが、結局帰る機会を失い、ハイネに寝室へ引きずり込まれた。1年前迄ヘンリー・パーシバルの定位置だったハイネのベッドではなく、ツインのもう片方の小さいベッドに彼は寝た。
「絶対にサヤカはハイネに触りたいだけなんだ。」
とヤマザキ・ケンタロウがブツブツ言った。久し振りのハイネのアパートでの酒宴でのことだ。その夜、初めてその酒宴に新メンバーが参加した。ハイネが殆ど強引に連れて来たので、ソファの上で小さくなって座っている彼に、ケンウッドがブランデーを勧めた。
「地球産のまともな酒だから、君の口にも合うさ。」
「有り難うございます。頂きます。」
グレゴリー・ペルラ・ドーマーは恐る恐るグラスに口を付けた。琥珀色の液体を口の中に流し込み、暫く目を閉じて味わってから呑み込んだ。彼がむせるのではないかと半ば期待していたコロニー人2人は、彼が平気な顔をしているのでがっかりした。
ハイネはキッチンでチーズやクラッカーやハムなどを皿に並べ、彩りがつまらないと独り言を呟いていた。それで彼は冷蔵庫に入っていた植物をひとつまみ皿の中央に盛りつけて客に出した。
「何だ、これ?」
「綺麗だが・・・食べ物なのか、ハイネ?」
元薬剤師ハイネはヤマザキの言葉に傷ついた様な顔をした。
「食べられないものを冷蔵庫に入れたりしません。」
ペルラ・ドーマーが苦笑してコロニー人達に教えてやった。
「ホウセンカです。園芸課で栽培していますよ。」
「見たことがないぞ。」
「それは、みなさんに行き渡る程の量を栽培している訳ではありませんので・・・」
コロニー人達に見つめられて、彼は説明を追加した。
「出産管理区で女性達をリラックスさせる為に食用花を作っているのです。」
「じゃぁ、ハイネが持っているのは、局長の特権か?」
「・・・そんなところです。」
ペルラ・ドーマーはボスの表情を伺った、ハイネは気が付かないふりをして、自身のグラスに酒を注ぎ入れた。ペルラ・ドーマーが尋ねた。
「私の他に何方がこちらへ招かれるのですか?」
「ドーマーでは君が初めてだ。」
「え?」
「エイブに声を掛けたが、3回誘って3回断られた。酔うと手元が狂うのが嫌なのだそうだ。」
「あの人は大工仕事命ですから・・・」
ヤマザキが質問した。
「グレゴリー、あちらの家では酒は飲めるのかい?」
ペルラ・ドーマーは「黄昏の家」の話をこちらの世界でして良いものか、ちょっと迷ってから、打ち明けても良い内容だと判断した。
「終末の家ですから、好きなだけ飲めます。」
「それで君は強いんだ・・・」
「別に私は飲んだくれている訳ではありません。」
「わかってるさ、君の性格なら、規則正しく暮らしているのだろうよ。」
「グレゴリー、ここにも外に漏らしてはいけない秘密があるんだ。」
ケンウッドの言葉に、ペルラ・ドーマーは室内を見廻した。見たこともない酒瓶がずらりと並んだ棚に取り囲まれている。
「局長がこんなコレクションをお持ちだとは存じませんでした。」
「口外しないでくれよ。ドーマーに飲酒を許したと知られたら、私は副長官を罷免される。」
「勿論です。こんな素晴らしい場所を他人に明かしたりしません。」
ヤマザキが彼を抱き締めて頬にキスをした。
「良いヤツだなぁ、君は!」
彼等は仕事の話はせずに、最近の若者の流行やら、火星コロニーで流行っているダンスの話や、テレビで見た地球の企業のCMやら、とりとめのない話をうだうだとして夜を過ごした。ペルラ・ドーマーは泊まるつもりはなかったのだが、結局帰る機会を失い、ハイネに寝室へ引きずり込まれた。1年前迄ヘンリー・パーシバルの定位置だったハイネのベッドではなく、ツインのもう片方の小さいベッドに彼は寝た。