会議が終了して、班チーフ達が部屋から出て行った。ハイネが手早く議事録をコンピュータに入力していると、ロッシーニ・ドーマーの咳払いが聞こえた。彼は顔を上げた。
「まだ居たのか?」
「ええ・・・遅刻の言い訳を申し上げたくて・・・」
ハイネは肩をすくめた。ロッシーニは長官秘書だ。忙しさは局長秘書と肩を並べるだろう。もし遅刻でなく欠席でもハイネは文句を言わないつもりだった。
彼は最後の文章を締めくくり、署名を入れてファイルを閉じた。コンピュータの電源を落とし、もう1度ロッシーニを見た。
「重要案件か?」
「そう言う訳ではありません・・・」
ロッシーニは彼にしては珍しく歯切れの悪い言い方をした。少し躊躇ってから、思い切って言った。
「夕刻、グレゴリー・ペルラがリプリー長官を訪ねて来ました。」
ハイネはロッシーニを見つめ、やがて片手で口元を押さえた。ゆっくりと立ち上がり、たった今迄自身が座っていた椅子を見下ろした。手を下ろして顔を天井へ向けた。
「何時だ?」
「局長・・・」
「15代目は何時逝かれたのだ?」
「私にはわかりません。まだご存命かも知れませんし・・・」
「長官をお呼びになったと言うことか?」
「長官と副長官を呼ばれた様です。他の執政官達はまだ何も知らないと思います。」
ハイネは小さく首を振り、ロッシーニを振り返った。
「もう遅い時刻だ。君も早く帰って休みなさい。明日長官は業務を休まれるかも知れない。秘書が執務室にいなければ長官はお困りだろう。」
ロッシーニは素直に席を立ち、出口まで歩いて行った。「お休みなさい」と言う為に振り返ると、局長は再び椅子に座っていた。もしかすると一晩中そこに座っているのではないかと彼は心配になったが、挨拶をしてドアから出て行った。
彼は本部ロビーまで降りると受付のデスクに着いているドーマーに声を掛けた。
「今から1時間経っても局長がお帰りにならなければ、私に連絡をくれないか?」
ローガン・ハイネは部下が部屋から出て行って1人になると、コンピュータの電源を入れた。何かをするでもなく、立ち上がった画面をぼんやりと眺めていた。何をしたかったのか、忘れてしまった。何も思い出せなかった。くたびれた時にもたれかかって休める大樹が消えてしまった、そんな感じだった。
コンピュータがメッセージを受信した信号音が響いた。小さな音量のはずだが、静まりかえった局長室に響き渡った。ハイネはゆっくりと手を動かしてメッセージを開いた。画面に表示された短い文章に、彼はハッと目を見開いた。
泣くなよ、ローガン・ハイネ
それは、遠い昔、ダニエル・オライオンを追いかけて脱走を試み、失敗した時のことだった。執政官の手で連れ戻され、涙を流した彼に、ランディ・マーカス・ドーマーが掛けた言葉だ。
ハイネはメッセージが送信された時刻を脳裏に刻み込み、画面に向かって言った。
「承知しました。」
そしてメッセージを削除すると、コンピュータの電源を落とし、席を立った。出口まで行くと、ドアを開き、室内の照明を落とし、暗い奥にある執務机に向かって一礼してドアを閉じた。
「まだ居たのか?」
「ええ・・・遅刻の言い訳を申し上げたくて・・・」
ハイネは肩をすくめた。ロッシーニは長官秘書だ。忙しさは局長秘書と肩を並べるだろう。もし遅刻でなく欠席でもハイネは文句を言わないつもりだった。
彼は最後の文章を締めくくり、署名を入れてファイルを閉じた。コンピュータの電源を落とし、もう1度ロッシーニを見た。
「重要案件か?」
「そう言う訳ではありません・・・」
ロッシーニは彼にしては珍しく歯切れの悪い言い方をした。少し躊躇ってから、思い切って言った。
「夕刻、グレゴリー・ペルラがリプリー長官を訪ねて来ました。」
ハイネはロッシーニを見つめ、やがて片手で口元を押さえた。ゆっくりと立ち上がり、たった今迄自身が座っていた椅子を見下ろした。手を下ろして顔を天井へ向けた。
「何時だ?」
「局長・・・」
「15代目は何時逝かれたのだ?」
「私にはわかりません。まだご存命かも知れませんし・・・」
「長官をお呼びになったと言うことか?」
「長官と副長官を呼ばれた様です。他の執政官達はまだ何も知らないと思います。」
ハイネは小さく首を振り、ロッシーニを振り返った。
「もう遅い時刻だ。君も早く帰って休みなさい。明日長官は業務を休まれるかも知れない。秘書が執務室にいなければ長官はお困りだろう。」
ロッシーニは素直に席を立ち、出口まで歩いて行った。「お休みなさい」と言う為に振り返ると、局長は再び椅子に座っていた。もしかすると一晩中そこに座っているのではないかと彼は心配になったが、挨拶をしてドアから出て行った。
彼は本部ロビーまで降りると受付のデスクに着いているドーマーに声を掛けた。
「今から1時間経っても局長がお帰りにならなければ、私に連絡をくれないか?」
ローガン・ハイネは部下が部屋から出て行って1人になると、コンピュータの電源を入れた。何かをするでもなく、立ち上がった画面をぼんやりと眺めていた。何をしたかったのか、忘れてしまった。何も思い出せなかった。くたびれた時にもたれかかって休める大樹が消えてしまった、そんな感じだった。
コンピュータがメッセージを受信した信号音が響いた。小さな音量のはずだが、静まりかえった局長室に響き渡った。ハイネはゆっくりと手を動かしてメッセージを開いた。画面に表示された短い文章に、彼はハッと目を見開いた。
泣くなよ、ローガン・ハイネ
それは、遠い昔、ダニエル・オライオンを追いかけて脱走を試み、失敗した時のことだった。執政官の手で連れ戻され、涙を流した彼に、ランディ・マーカス・ドーマーが掛けた言葉だ。
ハイネはメッセージが送信された時刻を脳裏に刻み込み、画面に向かって言った。
「承知しました。」
そしてメッセージを削除すると、コンピュータの電源を落とし、席を立った。出口まで行くと、ドアを開き、室内の照明を落とし、暗い奥にある執務机に向かって一礼してドアを閉じた。