2017年11月8日水曜日

退出者 4 - 2

 ケンウッドは無意識に小さな悲鳴を上げて階段の上に膝を突いた。また乾いたパンパンと言う音が2回続き、男性の怒号が聞こえたが意味は聞き取れなかった。

「博士!」

 叫んだのはレインだったろうか、ニュカネンだったろうか? ニュカネンがケンウッドの体の上に覆い被さる様にして、叫んだ。

「伏せて!」

 別方向からもパンパンと音が響き、誰かが怒鳴った。

「殺すな!」

 ケンウッドは右の二の腕に左手を当てて、その手に付いた血を見た。

 まさか、銃撃?

 弾丸を用いる武器は地球だけのものではないが、宇宙では滅多に使用されない。宇宙空間で弾丸を使えば、その場所の人間が一瞬に全滅する恐れがあるからだ。しかし地球ではまだ昔の武器、兵器が残っている。寧ろ光線銃など見たこともない人ばかりだ。光線銃を持っているのは、政府軍の特殊部隊か、遺伝子管理局だけだが、遺伝子管理局の光線銃には殺傷能力はない。
 ニュカネンの鼓動が聞こえるぐらい体を密着させて、若いドーマーはケンウッドを庇ってくれていた。彼は装備している光線銃を抜き、首を捻って状況を見ようとした。ケンウッドは男達が怒鳴る声を聞き、数人で争っている様子だと判断した。
 腕が猛烈に痛かったが、彼はニュカネンに声を掛けた。

「君は怪我はないか?」
「大丈夫です。」

 と答えてから、ニュカネンがケンウッドの体から離れた。彼は立ち上がり、ケンウッドに手を貸して立たせてくれた。

「暴漢は取り押さえました。」

 ケンウッドは階段の上がり口で3,4人の制服警察官が1人の男を取り押さえているのを見た。そばに立っているのはポール・レイン・ドーマーで、警察官に何か言っていた。
 ケンウッドはレインが無事なのでホッと胸をなで下ろした。ドーマー達にもしものことがあれば、心から悔やまれる。レインもニュカネンもドームの大切な息子達なのだ。

「博士、血が出ています!」

 ニュカネンが初めてケンウッドの異変に気が付いた。服の袖が裂けて血が滲み始めていた。ニュカネンはケンウッドの無事な方の左腕を掴んだ。

「市役所の医務室に行きましょう!」
「これはかすり傷だ・・・」

と強がってみたものの、経験したことがない痛みだった。どうしても顔が強ばってしまう。
 ドーマー達は無菌状態のドームで育っているので、外の世界で負傷するとどうなるか、散々教えられてきた。耐性のない病原菌を体内に入れてしまうと大変なことになる、と彼等は教わるのだ。
 ニュカネンはレインに声を掛けた。

「レイン、博士が怪我をされたっ! 医務室にお連れする。」

 レインが振り返った。ニュカネンに腕を取られて階段を上り始めているケンウッドを見て、彼は警察官に何か言い、急いで仲間の後を追いかけた。