リュック・ニュカネン・ドーマーは局長第1秘書ジェレミー・セルシウス・ドーマーにケンウッドの負傷を報告した後、直属の上司であるトバイアス・ジョンソン・ドーマーにも同じ報告をしておいた。チームリーダーのジョンソンは当然ながら彼自身の直属の上司である班チーフに連絡を入れ、班チーフの指示の下で支局にも連絡をしておいた。その際、彼はケンウッドの傷の治療に時間がかかることを想定して、支局長カイル・マルホランド元ドーマーに要請したことがあった。
ローズタウン空港からドームへ飛ぶ最終便のジェット機に間に合いそうにないので、ドームから静音ヘリの派遣をお願いしたい、と。遺伝子管理局が使用出来る専用ジェット機はその日南米班が使用していた。僻地で緊急処置が必要な妊婦がいて、彼女を病院があるネオ・サンパウロへ移送したのだ。
ケンウッドが次に目覚めた時は既にローズタウンの中部支局に到着していた。支局長のマルホランドがニュカネンと車外で話しをしているのが見えた。レインが外からドアを開けたので、ケンウッドは振り返り、そこが空港だと気が付いた。レインは静音ヘリコプターを指差した。
「飛行機の最終便に間に合わなかったのですが、ニュカネンがヘリを手配していましたので、あれで帰ります。ジェット機より時間がかかりますが、よろしいですか?」
「ああ・・・かまわない。明日までは待てない。早く帰ろう。君達も時間が迫っているだろう?」
ケンウッドはまだ目眩がしたが自力で車外へ出た。レインが肩を貸してくれたので、ヘリコプターまで歩いた。
「君達の仕事の邪魔をした挙げ句、こんな怪我で手間を取らせて申し訳ない。」
とケンウッドが囁くと、レインがびっくりして振り返った。
「貴方のお世話も仕事のうちですよ、博士。貴方もお仕事をされたじゃありませんか。」
うちの子供達はなんて素直なんだろう、とケンウッドは小さな感動を覚えた。ポール・レイン・ドーマーはコロニー人から身も心も傷つけられる酷い体験をしたにも関わらず、ケンウッドやパーシバルの愛情を信じてくれるのだ。
「君達に怪我がなくて本当に良かった。」
ケンウッドはそう言うのが精一杯だった。
ヘリコプターの中は想像したより広くて、座席が3列になっていた。ケンウッドは後部席で、出発まで横になっていて下さいとレインに指図された。飛行中は安全の為に座らなければならないので、それ迄体を休めて欲しいと言うのだった。毛布を掛けてもらい、ケンウッドは少し熱が下がったことに気が付いた。楽になったと言うと、レインはまだ安心出来ませんと真面目な表情で注意した。射創による発熱はこれから一晩続くだろうと言うのだ。ドーマー達が撃たれた話は最近なかったので、これはレインの耳知識から来る忠告なのだろう。
ニュカネンがヘリに乗ってくる気配はまだなかった。支局長に昨日と本日訪問した研究施設や企業、団体の報告をしているのだとレインが教えてくれた。ドーム副長官がセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンを非公式に訪問したことを口外しないよう、手を打つのだ。 コロニー人のドーム副長官が地球の街角で暴漢に襲われたと公に知られれば、外交問題に発展しかねない。マルホランドがこれから駆けずり回ってケンウッドの足跡を消して廻るのだ。ケンウッドは溜息をついた。
「私が余計なお節介をしようと試みたばかりに、大勢に迷惑をかけているなぁ・・・」
「お節介? 何です?」
レインが耳聡く尋ねた。接触テレパスの能力を持つ若者に、ケンウッドは思い切って今回の旅の真の目的を明かした。
「実は、ニュカネンに恋人がいると言う噂を聞かされてね・・・どんな女性なのか見ようと思ったんだ。外の人間との恋愛は、ドーマーの将来に重要な意味合いを持ってくるからね。」
その噂を教えてくれたクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは、レインはニュカネンの恋を知らないと言ったのだが、レインはケンウッドの口から聞かされても驚かなかった。
「先刻市役所で博士のお世話をした女性ですね。ニュカネンとかなり親しい様子でしたから、俺もピンと来ました。」
親しい様子、どころではなかった。抱き合っていたし、キスもしていた。リュック・ニュカネンは本気で彼女を好きになっている。
「君は知っていたのかね?」
「あの唐変木は嘘をつくのが下手なのです。市役所に相手がいると勘付いていましたが、相手を実際に見たのは、今日が初めてです。」
「どのくらいニュカネンは真剣なのかな?」
「俺にはわかりません。」
ダリル・セイヤーズ・ドーマーに真剣に恋をしていたレインは、同じ部屋兄弟のニュカネンには殆ど無関心だった様だ。しかし今日はしっかり相手の女性を見ていた。
「あの女性もニュカネンのことを思っている様ですね。親切で気が利く人だと思います。車に乗り込む時に紙袋をくれたでしょう? 博士の為に水と熱取りジェルのパックを買ってきてくれたのです。俺達の為の軽食も入っていました。」
どこまで真剣なのかなぁとレインが呟いた。その彼は、ドーマーだった父親が外の女性に恋をして、ドームから去って結婚した結果、産まれたのだ。ケンウッドはふと思った。
リュック・ニュカネンを手放すことになるのだろうか?
ローズタウン空港からドームへ飛ぶ最終便のジェット機に間に合いそうにないので、ドームから静音ヘリの派遣をお願いしたい、と。遺伝子管理局が使用出来る専用ジェット機はその日南米班が使用していた。僻地で緊急処置が必要な妊婦がいて、彼女を病院があるネオ・サンパウロへ移送したのだ。
ケンウッドが次に目覚めた時は既にローズタウンの中部支局に到着していた。支局長のマルホランドがニュカネンと車外で話しをしているのが見えた。レインが外からドアを開けたので、ケンウッドは振り返り、そこが空港だと気が付いた。レインは静音ヘリコプターを指差した。
「飛行機の最終便に間に合わなかったのですが、ニュカネンがヘリを手配していましたので、あれで帰ります。ジェット機より時間がかかりますが、よろしいですか?」
「ああ・・・かまわない。明日までは待てない。早く帰ろう。君達も時間が迫っているだろう?」
ケンウッドはまだ目眩がしたが自力で車外へ出た。レインが肩を貸してくれたので、ヘリコプターまで歩いた。
「君達の仕事の邪魔をした挙げ句、こんな怪我で手間を取らせて申し訳ない。」
とケンウッドが囁くと、レインがびっくりして振り返った。
「貴方のお世話も仕事のうちですよ、博士。貴方もお仕事をされたじゃありませんか。」
うちの子供達はなんて素直なんだろう、とケンウッドは小さな感動を覚えた。ポール・レイン・ドーマーはコロニー人から身も心も傷つけられる酷い体験をしたにも関わらず、ケンウッドやパーシバルの愛情を信じてくれるのだ。
「君達に怪我がなくて本当に良かった。」
ケンウッドはそう言うのが精一杯だった。
ヘリコプターの中は想像したより広くて、座席が3列になっていた。ケンウッドは後部席で、出発まで横になっていて下さいとレインに指図された。飛行中は安全の為に座らなければならないので、それ迄体を休めて欲しいと言うのだった。毛布を掛けてもらい、ケンウッドは少し熱が下がったことに気が付いた。楽になったと言うと、レインはまだ安心出来ませんと真面目な表情で注意した。射創による発熱はこれから一晩続くだろうと言うのだ。ドーマー達が撃たれた話は最近なかったので、これはレインの耳知識から来る忠告なのだろう。
ニュカネンがヘリに乗ってくる気配はまだなかった。支局長に昨日と本日訪問した研究施設や企業、団体の報告をしているのだとレインが教えてくれた。ドーム副長官がセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンを非公式に訪問したことを口外しないよう、手を打つのだ。 コロニー人のドーム副長官が地球の街角で暴漢に襲われたと公に知られれば、外交問題に発展しかねない。マルホランドがこれから駆けずり回ってケンウッドの足跡を消して廻るのだ。ケンウッドは溜息をついた。
「私が余計なお節介をしようと試みたばかりに、大勢に迷惑をかけているなぁ・・・」
「お節介? 何です?」
レインが耳聡く尋ねた。接触テレパスの能力を持つ若者に、ケンウッドは思い切って今回の旅の真の目的を明かした。
「実は、ニュカネンに恋人がいると言う噂を聞かされてね・・・どんな女性なのか見ようと思ったんだ。外の人間との恋愛は、ドーマーの将来に重要な意味合いを持ってくるからね。」
その噂を教えてくれたクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは、レインはニュカネンの恋を知らないと言ったのだが、レインはケンウッドの口から聞かされても驚かなかった。
「先刻市役所で博士のお世話をした女性ですね。ニュカネンとかなり親しい様子でしたから、俺もピンと来ました。」
親しい様子、どころではなかった。抱き合っていたし、キスもしていた。リュック・ニュカネンは本気で彼女を好きになっている。
「君は知っていたのかね?」
「あの唐変木は嘘をつくのが下手なのです。市役所に相手がいると勘付いていましたが、相手を実際に見たのは、今日が初めてです。」
「どのくらいニュカネンは真剣なのかな?」
「俺にはわかりません。」
ダリル・セイヤーズ・ドーマーに真剣に恋をしていたレインは、同じ部屋兄弟のニュカネンには殆ど無関心だった様だ。しかし今日はしっかり相手の女性を見ていた。
「あの女性もニュカネンのことを思っている様ですね。親切で気が利く人だと思います。車に乗り込む時に紙袋をくれたでしょう? 博士の為に水と熱取りジェルのパックを買ってきてくれたのです。俺達の為の軽食も入っていました。」
どこまで真剣なのかなぁとレインが呟いた。その彼は、ドーマーだった父親が外の女性に恋をして、ドームから去って結婚した結果、産まれたのだ。ケンウッドはふと思った。
リュック・ニュカネンを手放すことになるのだろうか?