昼食の後、ケンウッドは医療区に出頭した。ヤマザキ・ケンタロウが「逃げずに来たね」と笑った。
傷口のジェルを新しい物と交換した。弾丸で削られた部分の肉が盛り上がって見えた。
「再生が始まっている。ケンさん、案外治りは早いかも知れないね。」
励まされてケンウッドは心強く感じた。
処置室を出ると、医療区のロビーでハイネ局長が端末で仕事をしながら待っていた。ハイネの仕事には終わりがない。常に人間は生まれ死んでいく。ハイネはひたすらその記録を検分して、人々の法律上の存在を新たに付け加えたり削除したりする。
ケンウッドが彼の隣に座るとハイネは端末の画面を閉じた。
「どこでお話をお聞きしましょう?」
「私の副長官室で良いかな? ちょっと仕事が溜まっているのでね。」
「結構です。私はゆっくり出来そうですから。」
ハイネはちょっと楽しそうだ。他人の職場を覗くのが面白いらしい。そう言えば今回の旅の道中、ニュカネンとレインが珍しく意見が一致した話題があった。内勤の日に局員オフィスで仕事をしていると、局長が音もたてずに背後に立って仕事ぶりを見ている時があって、
「あれはびびるよなぁ!」
と2人が苦笑していたのだ。内務捜査官だったので、ハイネは他人の仕事をこっそり覗くのが上手い。しかし部下を監視しているのではないことをケンウッドは知っていた。局長は部下が何をしているのか知りたいだけだ。局員が支局から集めてくる書類の多くは局員自身で審査して許可を出したり証明書を出す。局長の元に送られて来るのは重要度が高いと班チーフが判断したものだけだ。だから局長は局員オフィスに足を運んで「その他」の書類を眺めているのだ。
副長官室に入るとケンウッドはデスクに着いた。すぐにコンピュータを起動させファイルを開いた。溜まっている書類を順番に片付けた。その間ハイネは面会者用の席に着いて端末を触っていた。
秘書が助手の来訪を告げた。ケンウッドの研究室の助手だ。副長官の仕事と研究者としての仕事が重なってケンウッドは忙しい。助手に研究の一部を一任していたので、その結果報告だった。女性の助手で、彼女は副長官室内に遺伝子管理局長が居るのを見て、一瞬びっくりして立ち止まった。ハイネは年齢に関係なく女性に人気が高い。
報告が終わって帰りかけた助手にハイネが声を掛けて呼び止めた。ケンウッドが何気なくそちらを見ると、驚いたことにハイネが自身の端末の画面を助手に見せているところだった。助手が覗き込み、何か言うとハイネが頷いた。
何だろう?
ケンウッドは気になった。ハイネが彼の仕事関係の書類を他人に、それもコロニー人に見せるとは思えない。ましてや若い助手に意見を求めたりしないだろう。
ハイネは仕事をしているのではないのか?
ハイネが礼を言うと、助手は微笑みながら「何時でもどうぞ」と囁いて部屋から出て行った。ドアが閉まるとケンウッドは我慢出来なくなって尋ねた。
「彼女に何を訊いていたんだね? 私や秘書では間に合わないことか?」
ハイネはケンウッドを振り返り、それから副長官秘書を見た。
「どちらも男性ですからね。」
と彼は言った。
「女性のことは女性に訊かないと・・・」
ケンウッドが彼の隣に座るとハイネは端末の画面を閉じた。
「どこでお話をお聞きしましょう?」
「私の副長官室で良いかな? ちょっと仕事が溜まっているのでね。」
「結構です。私はゆっくり出来そうですから。」
ハイネはちょっと楽しそうだ。他人の職場を覗くのが面白いらしい。そう言えば今回の旅の道中、ニュカネンとレインが珍しく意見が一致した話題があった。内勤の日に局員オフィスで仕事をしていると、局長が音もたてずに背後に立って仕事ぶりを見ている時があって、
「あれはびびるよなぁ!」
と2人が苦笑していたのだ。内務捜査官だったので、ハイネは他人の仕事をこっそり覗くのが上手い。しかし部下を監視しているのではないことをケンウッドは知っていた。局長は部下が何をしているのか知りたいだけだ。局員が支局から集めてくる書類の多くは局員自身で審査して許可を出したり証明書を出す。局長の元に送られて来るのは重要度が高いと班チーフが判断したものだけだ。だから局長は局員オフィスに足を運んで「その他」の書類を眺めているのだ。
副長官室に入るとケンウッドはデスクに着いた。すぐにコンピュータを起動させファイルを開いた。溜まっている書類を順番に片付けた。その間ハイネは面会者用の席に着いて端末を触っていた。
秘書が助手の来訪を告げた。ケンウッドの研究室の助手だ。副長官の仕事と研究者としての仕事が重なってケンウッドは忙しい。助手に研究の一部を一任していたので、その結果報告だった。女性の助手で、彼女は副長官室内に遺伝子管理局長が居るのを見て、一瞬びっくりして立ち止まった。ハイネは年齢に関係なく女性に人気が高い。
報告が終わって帰りかけた助手にハイネが声を掛けて呼び止めた。ケンウッドが何気なくそちらを見ると、驚いたことにハイネが自身の端末の画面を助手に見せているところだった。助手が覗き込み、何か言うとハイネが頷いた。
何だろう?
ケンウッドは気になった。ハイネが彼の仕事関係の書類を他人に、それもコロニー人に見せるとは思えない。ましてや若い助手に意見を求めたりしないだろう。
ハイネは仕事をしているのではないのか?
ハイネが礼を言うと、助手は微笑みながら「何時でもどうぞ」と囁いて部屋から出て行った。ドアが閉まるとケンウッドは我慢出来なくなって尋ねた。
「彼女に何を訊いていたんだね? 私や秘書では間に合わないことか?」
ハイネはケンウッドを振り返り、それから副長官秘書を見た。
「どちらも男性ですからね。」
と彼は言った。
「女性のことは女性に訊かないと・・・」