2018年9月25日火曜日

捕獲作戦  2 1 - 6

 世の中には地球人保護法を全く気にしないで、平気でドーマーを抱いたりお触りするコロニー人がいる。夕刻、ケンウッドは医療区へ行った。ヤマザキ・ケンタロウが彼を見て、クスッと笑った。

「あんな姿を彼は絶対に部下に見られたくないだろうな。」

 怪訝な顔をするケンウッドを導いてヤマザキは隣の理学療法区画へ向かって歩いて行った。その日は午後から巡回医師のヘンリー・パーシバル博士が神経科の診察をする予定だった。同科の患者は目下のところ3名だけで、うち2名は執政官だ。既に診察は終わっていて中央研究所に戻っている。残りの1名はグレゴリー・ペルラ・ドーマーで、最近は背中の調子が良いので今回の診療はキャンセルしていた。
 
「グレゴリーはヘンリーに会いたくないんじゃなくて、痛みがない時に撫でられるとくすぐったいのだそうだ。だから遠慮した。」
「難しいなぁ・・・」

 ケンウッドは、ペルラ・ドーマーがくすぐったいから診療をキャンセルしたとは信じなかった。ペルラはパーシバルと世間話をするのが好きなのだ。だから、キャンセルは別の理由がある筈で、その理由はヤマザキが施術室の扉を開けると判明した。
 施術台の上でパーシバルが座り込み、自身より大きなローガン・ハイネ・ドーマーを前に横たえて背中を撫でていた。否、マッサージしていた。ハイネは気持ちが良いらしく、全身脱力してだらんとしている。先刻長官執務室でポール・レイン・ドーマーに見せた厳しいリーダーの顔はどこへ行ったやら・・・。

「ヘンリーく〜ん!」

とヤマザキが呼びかけた。

「君の患者リストに遺伝子管理局長が入っているなんて聞いてないぞ。」
「そんじゃ、今入ったんだ。」

  パーシバルは一向に気にしないで、ハイネの背中の筋肉を押したり撫でたりを続けた。

「凄いじゃないか。これで100歳だぞ、ハイネ! こんな弾力のある筋肉を持つ100歳なんて、宇宙にだっていないぞ。」

 ヤマザキが首を振った。

「ハイネ、グレゴリーにヘンリーとの触れ合いの時間を譲らせたな?」
「グレゴリーが譲ってくれたんですよ。」

 ハイネが枕の上で囁いた。

「密談に丁度良いからと・・・」
「密談?」
「何?」

 ヤマザキとパーシバルが同時に尋ねた。ケンウッドが咳払いして、存在を友人達に思い出させた。

「ヘンリーの長年の心残りが解消される日が近いのだよ。」
「僕の・・・?」

 パーシバルはキョトンとしたが、直ぐに思い当たった。

「セイヤーズが見つかったのか?」

 彼は屈みこんでハイネの顔を見た。

「そうなのか、ハイネ?」

 ハイネは目を閉じた。

「レインが見つけました。首尾よく行けば、明日ドームに連れて帰って来る予定です。」