2018年9月15日土曜日

4X’s 2 6 - 5

「ラムゼイは、使用した卵子を顧客の女性から採取したものと思われる。だから、売却されたのは客自身の子供、もしくは妻の実子だ。」
「精子は? 地球人の精子はY染色体のものしか女性のX染色体に受け入れてもらえないだろう?」
「だが、ある特定の男のものは受け入れられたのだ。」

 ケンウッドがハイネを見たので、ハイネが懸念を口に出した。

「進化型遺伝子保有者のものですね?」

 ケンウッドが頷いた。ヤマザキはまさかと呟いた。

「その、進化型遺伝子は1級危険値S1じゃないだろうな?」
「ラムゼイは・・・」

 ケンウッドはダルフームに見せた内容を語った。

「S1因子を除去すれば女の子は生まれない書いている。」
「つまり、祖先の記憶を代々受け継ぐS1だからこそ、女性のX染色体に男のX染色体が受け入れられた?」
「うん。」
「大異変前の遺伝の記憶をS1は持っている?」
「恐らく・・・それから、ラムゼイは、生まれた女の子のS1因子はヘテロだから、能力の発現はないとも書いている。」

 ハイネが視線を何処か遠くへ向けた。

「セイヤーズは何の目的でラムゼイに精子を渡したと思います、長官?」
「目的?」
「今日、ポール・レイン・ドーマーが、山の小屋に住んでいる男がダリル・セイヤーズであると確認しました。」

 ハイネは昼寝直前に受け取ったレインの報告書の内容を、さらりと言った。

「セイヤーズは少年と同居しています。彼はレインに、その若者を彼の息子だと言った。クローンなのです、その少年は。それに、セイヤーズは、レインがラムゼイの名前を出すと反応したそうです。レインは、クローンの息子の製造元はラムゼイだと睨んでいます。」

 ヤマザキが悩ましげな顔をした。

「セイヤーズは自身の息子が欲しくてラムゼイに自身の体液を渡したんだな・・・ラムゼイはこっそり一部を流用したか・・・」

 ハイネが別の考えを述べた。

「セイヤーズは高価なクローンに払う金を持っていなかった筈です。ラムゼイが報酬として求めたのではありませんか? セイヤーズの価値を知っていなくても、ドーマーの子種ならそれなりに売値が付くと思ったのでしょう。」

 ケンウッドはハイネの説を認めた。

「ラムゼイはセイヤーズから得た染色体を使用前に分析していた。腐っても遺伝子学者だからね。どんな遺伝子なのか調べずにいられなかったのだろう。そして、とんでもないものを得たと知ったに違いない。」
「ラムゼイが作ったのは、女の子だけですか?」
「男の子もいたが、そちらはY染色体だから、S1は持っていない。」

 ケンウッドはハイネを見つめた。

「セイヤーズをどうしても取り戻したい。ハイネ、頼む、あのドーマーを捕まえてくれ。」