2018年9月19日水曜日

4X’s 2 6 - 10

 医療区を出たローガン・ハイネ・ドーマーはその足で中央研究所に行った。端末にケンウッド長官から「来てくれ」とメッセが入っていた。普通ドーマー達は中央研究所に呼ばれる時はそれなりにきちんと仕事用の衣服を身につけて行く。そこで何が行われても、それはドーマー達の仕事だからだ。しかし、ハイネは遺伝子管理局本部での一日の仕事を終えたのだし、今更スーツに着替えて出直すのは面倒だったので、スウェットスーツのままで出頭した。長官だって本当は仕事を上がった筈なのだ。
 長官執務室に入ると、当然ながら秘書は帰宅しており、ケンウッド1人がコンピュータの画面を見つめていた。ハイネは彼の机の少し手前で立ち止まり、暫し目の前のコロニー人を黙って眺めていた。
 ケンウッドはハイネより30歳近く若い。息子と呼んでも良い年齢だ。しかし長官職の激務と皮膚の老化現象の研究家にも関わらず己の皮膚に関心を持たないせいで、ニコラス・ケンウッドは実際の年齢より4、5歳は老けて見えた。知らない人が見れば、ケンウッドの方がハイネより年上だと思うだろう。

 このコロニー人を長生きさせたくば、地球に女性を誕生させねば・・・

 ハイネは軽く咳払いして、存在をアピールした。ケンウッドがハッとした表情で顔を上げ、局長を見つけて頭を掻いた。

「来てくれたのか・・・遅くに呼び出してすまん。」

 ハイネは自分の席に座った。ケンウッドはキーボードに何かのコマンドを入力した。呼ばれたのは己だけかとハイネは少し驚いた。長官執務室に時間外に呼ばれる場合は、大概副長官も一緒なのだ。ケンウッドがまた顔を上げた。直ぐに説明に入った。

「夕方、セイヤーズが女の子を作れると言う話をしただろう?」
「ええ。」
「あの資料とは別に、もう一つ別のグループの子供の記録があったんだ。気になって、夕食後にもう一度読み返して見た。」
「クローンですか?」
「クローンではない。セイヤーズの子供達も正確には体外受精児で、普通の人間だ。現在セイヤーズと一緒に居る少年は、クローンに間違いないだろうが・・・。」

 ハイネはケンウッドが奥歯に物が挟まった様な言い方をするので、早く本題に入れよ、と心の中で呟いた。

「セイヤーズの子供達も、と仰いましたか? まるで他の男の子供が居る様な言い方ですね。」
「ラムゼイは、そのグループの精子提供者の氏名を何処にも書いていないんだ。だが、その子供達の父親は最近迄健在の筈だ。」

 ハイネは聡明だ。ケンウッドが何を言いたいか、直ぐに悟った。

「女の子を作れる男が、セイヤーズの他にもいて、ラムゼイはその男の子供を作り続けていたと、仰るのですね?」
「うん・・・それもセイヤーズが逃げ出すより以前からだよ。しかし、ラムゼイはその父親に関して何一つ個人的な記録を残していない。ただ、”彼”と書いているだけなんだ。」

 ハイネがケンウッドの目を見た。ケンウッドも彼の目を見返した。どちらも同じ疑念を抱いていた。