2018年9月9日日曜日

4X’s 2 5 - 5

 ドライブコンピューターに目的地の座標を入力して、自動運転にすると、レインは上着を脱いだ。日差しが強く、紫外線カットの車内はエアコンを利かせていたが、それでも車内温度はジリジリと上がってくる。上着を脱ぐと光線銃のホルスターが露出した。レインは少し迷った。目的地にいる男がダリル・セイヤーズだと言う自信があったが、もし違っていたら、相手は身を守ろうとするだろう。銃が必要になるかも知れない。ダリルなら、レインに危険な行為をしない筈だが、同居人はどんな行動をとるだろう? セイヤーズは抵抗しない代わりに逃げるだろう。その時、麻痺光線が必要なのではないか?
 悩んだ挙句、レインはホルスターは装着したまま、銃だけ脱いてダッシュボードに入れた。これで相手が誰だろうと、こちらには傷つける意思はないのだと伝わるに違いない。
 車は土埃を上げながらダラダラうねうねと曲がりくねった山道を登って行った。
 セイヤーズに会ったら、最初になんと声をかけよう。レインは18年間考え続けてまだ結論を出せない悩み事に、終止符を打とうとしていた。
 コンピューターが目的地に到着したと告げた時、彼は頭に浮かんでいた3つの最終候補の台詞を全部忘れてしまった。真っ白な頭のまま、彼はブレーキをかけた。
 目の前に、貧相な野菜畑があった。収穫が一度終わって、次の作物の種を撒く準備をしていたのだが、農耕の知識がないレインには、ただの乾いた更地に見えた。
 古いポンコツのトラクターに男が1人乗っていた。麦わら帽子を被っている、その襟足に覗く髪は黒かった。彼が顔をこちらに向ける時、髪がキラリと緑色に光った。葉緑体毛髪だ。レインは己の地毛の色を思い出し、嫌な気分になった。彼は自身の髪が嫌いだった。
トラクターの上の若い男が岩の塊に見える家屋に顔を向けて何か怒鳴った。レインはそれに釣られて同じ方向に目を向けた。
 家屋の前にもう1人の男が立っていた。古いコットンのシャツとズボンを身につけ、古い野球帽を被っているが、日焼けしたその顔は18年間忘れたことがなかった男のものだった。彼は手についた泥を払い落としていた。車内の人間の顔を判別出来た筈だ。それに黒塗りの車、中西部にありながら東海岸のナンバープレートで登録されているセダンが、何処の物かもわかっている。
 レインは彼の顔を見つめたままドアを開け、外に出た。革靴が埃まみれになっても気にしなかった。否、気づかなかった。彼は紫外線避けのサングラスを取った。喉に力を入れ、声を出した。

「やあ、ダリル、久し振りだな。元気そうだね。」

 本当はこんな台詞を言うつもりじゃなかった、と彼は意識の底でぼやいた。もっと気の利いた言葉を考えていたのに・・・。誰にもわからない失敗を隠す為に、レインは無理矢理笑顔を作った。
 セイヤーズはやっと彼が誰だかわかった様だ。目を丸くした。

「君か、ポール。驚いたな、まるでトニー小父さんみたいだ。」

 剃髪した姿を見たのは初めてなのだ。しかし、セイヤーズが車内の彼を識別出来なかったことを、レインはちょっと残念に感じた。車内が外の人間から見ると暗くて中の人間が見え辛いなんて、考えが及ばなかった。いつものレインらしくないことだった。
 セイヤーズがゆっくりと近づいて来た。逃げない。だが用心している。レインが遊びに来たのでないことぐらい承知しているのだ。
 レインは手を前へ出した。セイヤーズがその手を握った。いきなり感情の波がレインに押し寄せて来た。

  ポール、会いたかったよ! 遂に見つけてくれたんだな!!

 その瞬間、セイヤーズはポール・レイン・ドーマーのダリルに戻った。