ポール・レイン・ドーマーがドームに帰投したのはケンウッド達幹部が夕食を終える頃だった。彼は消毒を終えるとゲートの内側に入り、端末を返却してもらった。直ぐに本部に帰投の連絡を入れた。時間的に局長も仕事を終えている筈だったので、直通でかけるとハイネは直ぐに出てくれた。バックに賑やかなざわめきが入っていたので、一般食堂だと見当がついた。戻った旨を告げた。ハイネは彼に夕食を採ったかと尋ね、まだだと答えると必ず食べるようにと言われた。仕事の報告を何処でするべきか訊く前に、ハイネの電話にヤマザキが割り込んで来た。
「レイン・ドーマー、抗原注射の代替薬剤は体力の消耗が通常のものより激しい。食事が済んだら医療区に来なさい。」
「しかし、報告が・・・」
「ハイネが医療区に来る。そこで報告すると良いだろう。」
ハイネが、聞いてないよ、と言う顔をするのが画面で見えた。しかし医者は完全に主導権を獲っており、ハイネにそれ以上意見を言わせずに電話を切った。
上司に逆らうことを知らないドーマー、ポール・レインは渋々手近な中央研究所の食堂へ足を運んだ。一度医療区を通り抜けて、また戻らねばならない。自宅アパートで寝ていれば済むんじゃないかと内心不満だったが、ドームでは医療区は絶対だ。長官すら逆らえない。医師の命令を無視して保安課に捕獲されるのは御免だった。
医療区から出ると直ぐにファンクラブに見つかった。声を掛けられたが、いつもの様に無視して食堂へ入った。珍しくキャリー・ワグナー・ドーマーが1人で食事をしていた。夫のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが西海岸へ出張しているので、今夜は1人なのだ。レインは、この部屋姉妹のテーブルへ行った。
「同席して構わないかな、キャリー?」
キャリーが顔を上げ、にっこり笑った。
「構わないわ、ポール兄さん。」
ファンクラブが距離を置いた。女性ドーマーに迂闊にちょっかいを出すと厄介な事態になる。地球人保護法違反とセクハラで訴えられかねない。それにキャリーは精神科の正規の医師なので、コロニー人も彼女の医療診断に従わねばならない。もし「異常行動を採っている」などと言われたら、保安課に観察棟へ連れて行かれてしまう。
勿論、レインはそう言うことも計算の内だった。可愛い妹は強力な味方でもあるのだ。
キャリーはレインの特別任務の内容を知らなかったが、通常の薬剤でない物を抗原注射で接種したことは知っていた。だからレインが食べるのを眺めて、食欲に異常がないことを確認した。
「明日は運動も通常の半分の量に減らして十分な休養をとると良いわ。」
「忠告有難う。食事の後で医療区に行けとヤマザキ博士に言われているんだ。」
「それなら安心だわ。」
キャリーがにっこりした。
「きっと一晩点滴を受けることになるでしょう。でも明日になれば通常の効力切れの時より体が楽になっている筈よ。」
「そうなのか?」
「ええ。ケンタロウ先生が薬剤管理室に解毒剤の手配をしているのを聞いたもの。」
「医療区で局長に面会することになりそうだが・・・」
「病室は立ち聞きされずに済むしね。」
キャリーは距離を置いてテーブルに着いているレインのファンクラブをちらりと見た。
「兄さん、あの人達、なんとかならないの? うざくない?」
「うざいに決まっているだろう。」
レインは精神科医に本音をポロリと漏らした。
「だが、役に立つこともあるんだ。あれでも一応執政官だからな。」
「レイン・ドーマー、抗原注射の代替薬剤は体力の消耗が通常のものより激しい。食事が済んだら医療区に来なさい。」
「しかし、報告が・・・」
「ハイネが医療区に来る。そこで報告すると良いだろう。」
ハイネが、聞いてないよ、と言う顔をするのが画面で見えた。しかし医者は完全に主導権を獲っており、ハイネにそれ以上意見を言わせずに電話を切った。
上司に逆らうことを知らないドーマー、ポール・レインは渋々手近な中央研究所の食堂へ足を運んだ。一度医療区を通り抜けて、また戻らねばならない。自宅アパートで寝ていれば済むんじゃないかと内心不満だったが、ドームでは医療区は絶対だ。長官すら逆らえない。医師の命令を無視して保安課に捕獲されるのは御免だった。
医療区から出ると直ぐにファンクラブに見つかった。声を掛けられたが、いつもの様に無視して食堂へ入った。珍しくキャリー・ワグナー・ドーマーが1人で食事をしていた。夫のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが西海岸へ出張しているので、今夜は1人なのだ。レインは、この部屋姉妹のテーブルへ行った。
「同席して構わないかな、キャリー?」
キャリーが顔を上げ、にっこり笑った。
「構わないわ、ポール兄さん。」
ファンクラブが距離を置いた。女性ドーマーに迂闊にちょっかいを出すと厄介な事態になる。地球人保護法違反とセクハラで訴えられかねない。それにキャリーは精神科の正規の医師なので、コロニー人も彼女の医療診断に従わねばならない。もし「異常行動を採っている」などと言われたら、保安課に観察棟へ連れて行かれてしまう。
勿論、レインはそう言うことも計算の内だった。可愛い妹は強力な味方でもあるのだ。
キャリーはレインの特別任務の内容を知らなかったが、通常の薬剤でない物を抗原注射で接種したことは知っていた。だからレインが食べるのを眺めて、食欲に異常がないことを確認した。
「明日は運動も通常の半分の量に減らして十分な休養をとると良いわ。」
「忠告有難う。食事の後で医療区に行けとヤマザキ博士に言われているんだ。」
「それなら安心だわ。」
キャリーがにっこりした。
「きっと一晩点滴を受けることになるでしょう。でも明日になれば通常の効力切れの時より体が楽になっている筈よ。」
「そうなのか?」
「ええ。ケンタロウ先生が薬剤管理室に解毒剤の手配をしているのを聞いたもの。」
「医療区で局長に面会することになりそうだが・・・」
「病室は立ち聞きされずに済むしね。」
キャリーは距離を置いてテーブルに着いているレインのファンクラブをちらりと見た。
「兄さん、あの人達、なんとかならないの? うざくない?」
「うざいに決まっているだろう。」
レインは精神科医に本音をポロリと漏らした。
「だが、役に立つこともあるんだ。あれでも一応執政官だからな。」