2018年9月4日火曜日

4X’s 2 4 - 10

「要するに、私はあっさり諦めてもらえる、軽い男だった訳だ。」

 ケンウッドが自嘲気味に言った。彼はケプラーの体裁の為に追加した。

「私がふった形だが、あっさり退かれてしまうと、後でこちらががっくり来たってソフィアは知らなかっただろうね。」
「あら、泣いてすがりついて欲しかったの?」

 ケプラーとサントスが笑い、ゴーンとハイネも苦笑した。ケンウッドも笑うしかなかった。
 今こうして笑って話が出来て、良かったと思った。この後再会する可能性があると誰も断言出来なかったが、もし何処かで出会っても、お気楽に挨拶出来るだろう。
 サントスがハイネを見た。

「貴方にはお好きな方はいらっしゃるの? 女性でも男性でも・・・」

 ハイネは営業用の微笑みを浮かべて答えた。

「私の立場で特定の人物に心を寄せていると言うのは、拙いですね。しかし、強いて申せば、男性より女性の方が好みです。」
「優等生なのね。」
「ヴァレリア、失礼ですよ。ハイネ局長は私達よりずっとお歳が上なのよ。」

 あっ! と言う表現をサントスは見せたが、ケンウッドにはそれが演技なのか本当の驚きなのか判別出来なかった。サントスはハイネに失礼を詫びた。ハイネは気にしていませんよ、と笑顔で許した。もっとも、これが男性相手だったら、彼は拗ねて見せた筈だ。コロニー人を相手にする場合、ハイネは男女差を明確にする。本当に女性が好きなのだ。
 ケンウッドは自身が長官であることを思い出した。そして元婚約者の1人は政治家だ。

「次は何処を見学するのかね、ケプラー議員」

 突然現実に戻ってしまった彼に、ケプラーがちょっと驚いて眉を上げた。

「いきなり現実に帰るのね。」
「時間を考えただけさ。仕事がなければゆっくり君達のお相手をしていたいがね。」

 ケンウッドはハイネを見てちょっと笑った。

「初めてハーレムの気分を味わえたし・・・」

 ハイネも目が笑っていた。

「今日1日、空けてあるのでしょう、長官? 打ち合わせもありませんでしたし。」
「君は午後の予定はどうなっているんだ?」
「部下の報告書を読むことにしています。」

 するとケプラーが尋ねた。

「遺伝子管理局の見学は出来ますか?」
「駄目です。」

 ケンウッドとゴーンが即答した。あまりに早かったので、ケプラーは口を閉じ、サントスが代わりに言った。

「禁止されているのですか?」
「遺伝子管理局は地球人の役所です。コロニー人の介入は許されていません。これは、ドームが創設された時に、地球とコロニーの間で交わされた約束です。」

 ケプラーはハイネ局長を見た。女性大好きな局長が何とか妥協してくれないか、期待したのだろう。しかしハイネは視線をデザートの南瓜のチーズケーキにロックオンしていた。こんな場合の局長は、他人の要求を受け付けてくれない。または彼自身の意見しか言わない。つまり、ケプラー議員の要求には答えるつもりがない、と言う意味だ。
 ケンウッドはドームのルールを改めて思い出し、客人達に言った。

「ドーマーに関する施設の見学はお断りします。貴女のお仕事には関係ない筈ですから。」