2018年9月13日木曜日

4X’s 2 6 - 1

 ケンウッドは久し振りに科学者に戻った気分だった。遺伝子管理局北米南部班が中西部から回収して来たメーカーの資料、トリスタン・ベーリングとラムゼイ博士のアジトから持ち帰った遺伝子組み替えやクローン製造の記録や計算式、理論などの資料を読み解くのだ。
 小会議室で、己の研究を一旦中断しても良いと言う執政官達が集まって、各自の得意分野でメーカーの資料の解読を行っていた。ケンウッドの専門分野である皮膚の老化はなかったが、彼はメーカー達が生まれたクローンを販売した客を探っていた。メーカーの顧客リストは暗号化されているので、解読に手間がかかった。
 ラムゼイは、女性の子供を販売していた。ケンウッドは読み解くうちに、大変なことに気が付いた。顔から血の気が失せ、すぐ後に今度は血が上った。近くにいたダルフーム博士がそれに気が付いた。

「いかがされました? ケンウッド博士?」

 研究に関する仕事の最中なので、この最古参の科学者はケンウッドを長官ではなく博士と呼んでくれた。ケンウッドは彼を振り返った。ジェフリー・B・B・ダルフームは執政官の誰よりも長くこのアメリカ・ドームに居る。もしかすると、地球上の全てのコロニー人の中で一番長く居るのかも知れない。すっかり歳を取ってしまったが、彼はまだ女性誕生の手がかりを見つけようと毎日研究に励んでいた。

 この人がここに居る間に女性を誕生させたいものだ・・・

 ケンウッドは無言で資料を彼の前に差し出した。ラムゼイの研究所からレインが持ち帰ったものの一つだ。ダルフームは紙に手書きされたその資料を読んだ。彼はグッと唇を噛み締め、大きなショックを受けたことを隠そうとした。ケンウッドは彼が発作でも起こさないかと心配した。
 ダルフームが顔を上げ、ケンウッドを見た。

「これは本当のことなのですね?」
「ラムゼイがこれを他人に見せる意図で書いたのでなければ、真実でしょう。」

 ダルフームは小会議室を見回した。他の学者達はそれぞれに分担された資料を分析するのに忙しく、2人の小声の会話に耳を傾けた様子がなかった。
 ダルフームが資料をケンウッドに手渡しながら囁いた。

「サンテシマがこれを知ったら、自殺しかねませんな。」
「サンテシマどころか、私も地球人に申し訳ない気持ちでいっぱいですよ。」

 ケンウッドは大きな溜め息をついた。