2018年9月14日金曜日

4X’s 2 6 - 3

 監視カメラの死角になっている木陰で、遺伝子管理局長ローガン・ハイネ・ドーマーが上着を丸めて枕がわりに寝ていた。そのすぐ側の立木にもたれかかって出産管理区長アイダ・サヤカも目を閉じて脱力していた。いつも多忙な夫婦の束の間の休息だ。ちょっと想像していた状態と違っていたので、ケンウッドは肩透かしを食らった気分になった。ヤマザキの言い方を聞いて、もう少し公序良俗に反する行為をしているのかと危惧してしまったのだ。ヤマザキはそんなケンウッドの拍子抜けした表情を横目で見て、ニヤッと笑った。
そして故意に木の枝を揺すって音を立てた。
 先にアイダが目を開き、数秒後にハイネも目覚めた。どちらも熟睡している訳ではなかったのだ。ほんの少しの休憩だ。その邪魔をしてしまったケンウッドは申し訳なく感じた。
 ハイネが上体を起こし、アイダが端末を出して、時刻を見るふりをして画面を鏡がわりに顔をチェックした。ケンウッドは彼等の前に出た。

「起こして悪かった。」

 彼が謝ると、ヤマザキが後ろで

「もう昼寝の時間でもあるまいに。」

と呟いた。確かにドームの壁の向こうは暗くなっていた。
 ハイネが脚を前に出して座り直した。

「2人お揃いで、何かありましたか?」
「僕もそれを聞きたいね。」

 ヤマザキはまだ何もケンウッドの要件を聞いていない。アイダが

「私は席を外しましょうか?」

と尋ねたので、ケンウッドは首を振った。

「否、貴女にも聞いてもらいたい。本当は副長官にも聞かせたいのだが、彼女は今クローン製造部にいるから、後で話す。」

 ヤマザキがハイネの隣、アイダの反対側に座った。ケンウッドは彼等の前に腰を下ろした。立ったままだと誰かに立ち聞きされるような気がした。

「今日は、遺伝子管理局が押収したメーカーの資料を手が空いている執政官達で整理していたんだ。」

 それ自体は珍しいことではない。品質の良いクローンを製造出来る腕を持つメーカーが摘発される度にドームはそのメーカーの研究資料を分析してきた。何か女性誕生の手がかりがないか、探れるものは徹底的に探ってきたのだ。

「4Xと呼ばれる少女を遺伝子組み替えで作ったらしいトリスタン・ベーリングの研究は、かなり行き当たりばったりで、女の子を生み出した偉業にそぐわない。少女の誕生は、恐らく全くの偶然だったと思われる。ベーリングは方程式どころか、正確な記録すら録っていない。方程式の噂を流したのは、ベーリング本人ではない筈だ。多分、彼の研究室を解雇された者のリークだろう。」

 ケンウッドは本題に入る前に、今までに解ったことをざっと説明した。