2018年9月5日水曜日

4X’s 2 5 - 1

 連邦議会の議員と秘書は夕刻宇宙へ帰って行った。ケンウッドは送迎フロア迄見送り、女達がゲートから出て行くと、ホッと一息ついた。一体何が目的で彼女達が地球に来たのか、結局解らずじまいだった。ただケンウッドをからかいたかったのかも知れない。
 ハイネはテレビで有名になった部下達や維持班のドーマー達がコロニー人の好奇の的にならずに済んで、同じくホッとしていた。コロニー人達はドーマーをアイドルか何かと勘違いしている。
 ハイネが部下達の報告書に目を通していると、ポール・レイン・ドーマーから電話が入った。近頃よく直通で電話をかけてくる。昔はほとんど口も利かなかったので、大人しい男か、敬遠されているのか、と思う程度だった。しかしダリル・セイヤーズの捜索に関する熱意がそうさせるのか、局長がセイヤーズを諦めていないと知ってからは、積極的に連絡を取ってくるようになった。そしてハイネはそれが嫌ではなかった。クロエル・ドーマーの様に無条件に懐いてくれる部下も嬉しいが、レインの様に頼ってくれる者の存在も彼には喜びだった。
 レインの要件は彼が予想した通り、抗原注射の代替薬品使用許可を求めるものだった。

「これで終わりです、どうか許可をお願いします。ヤマザキ博士を説得していただけませんか?」
「後2日待てないか?」
「待てません。ダリルは逃げないと思いますが、4Xが無事でいるとは思えません。ラムゼイの手に堕ちては、保護が難しくなります。」
「ふむ・・・」

 ハイネはレインが最後に注射を打った日から何日たったか考えた。そして妥協点を見つけた。

「セイヤーズの本人確認と4X捜索の依頼、一日あればそれだけは出来るな?」
「一日ですか?」
「一日だけだ。薬剤を半量にして接種してもらえ。 君ならその程度の時間で二つの仕事をやれるだろう?」
「・・・出来ると思います。」
「思う?」

 ハイネのリピートに、レインはちょっと慌てた。出来ると断言しなければ、局長は注射の許可を与えてくれないのだ。レインは急いで答えた。

「出来ます。」

 ハイネは頷いた。ポール・レインなら出来ると彼には確信があった。

「では、ヤマザキ博士に伝えておこう。明日早朝運動の後に医療区に行きなさい。」
「有り難うございます!」

 レインの声が元気になった。
 電話を終えて、ハイネはヤマザキ・ケンタロウをどう説得しようかと考え始めた。