2018年9月6日木曜日

4X’s 2 5 - 2

「ハイネ・・・本気で言ってるのか?」

 ヤマザキ・ケンタロウは渋い顔で親友の遺伝子管理局長を睨みつけた。

「ポール・レインは帰投してまだ1週間も経っていないんだぞ。」
「承知しています。私も後2日は休ませたかったのですが、本人の気が逸って落ち着かないらしいのです。何しろ・・・」

 ハイネは溜め息混じりに言った。

「セイヤーズを見つけたのですから。」
「しかし、レインが体を壊したら、セイヤーズを連れ戻すどころじゃなくなるだろう?」

 そう言いはしたものの、ヤマザキもレインが逸る気持ちを理解していた。18年間探し続けていた恋人を遂に発見したのだ。レインは自身の健康など考えていられない気持ちだ。
 ハイネが青みがかった薄い灰色の目でじっとヤマザキを見つめた。この男も愛する女を手に入れる為に、死も辞さない、とケンウッド長官を脅したのだ。

 ドーマー達は皆クールに見えて情熱的なんだから・・・

 ヤマザキはコンピュータに薬剤変更指図を打ち込んだ。

「わかったから、その切なそうな目で見つめるのは辞めてくれ、ハイネ。まるで僕が君達に意地悪をしている様な気分になるじゃないか。」

 最後に署名を入れて、薬剤管理室に送信した。半時間後には薬が届く筈だ。

「これでレインは明日出かけられる。だけどハイネ、他の部下にこの裏技を教えたりしないでくれよ。」
「その点は大丈夫、信用して下さい。」

 どうだか、とヤマザキは心の中で呟いた。
 その時、彼の端末が「お知らせ」メロディを鳴らした。彼が登録してあるサイトの更新があったのだ。それはちょっとした彼のお楽しみだった。ハイネに「失礼するよ」と言って、端末を開いた。ハイネは彼が画面を覗いて、「ほうっ」と声を上げるのを聞いた。
 ヤマザキはハイネを見た。

「珍しく、美女3人がケンさんに注目している。同席している君を差し置いて、ケンさんに、だ。どうなってるんだ?」

 ハイネは昼間の食堂のことだと直ぐにわかったが、それが何故ヤマザキにお知らせで通知されるのか、解らなかった。ヤマザキの端末を覗き込んだ。
 食堂のテーブルでケンウッドとケプラー議員、サントス秘書、それにゴーン副長官がそれぞれ相対している。テーブルにはハイネも同席していたのだが、画面の端っこ扱いだ。
写真の下に投稿者のコメントが入っていた。

ーーケンウッド長官、美女に迫られ、タジタジ・・・

 確かに、ケンウッドの表情は追い詰められた人間のそれだった。
 ハイネは顔を上げてヤマザキを見た。

「このサイトは何です?」
「知らないのかい?」

 ヤマザキがクスクス笑った。

「今、ドーマーや若い執政官の間で話題になっているパパラッチ・サイトだよ。誰が撮影するのか知らないが、ドームの住民の恥ずかしい瞬間を上手く撮ってアップするんだ。それも人気者や幹部ばかり狙ってね。」

 ハイネの表情に不安の色が現れたので、彼は安心させようと追加した。

「撮影場所は主に食堂や図書館、運動施設だ。中央研究所や遺伝子管理局なんかの重要施設での画像はない。所謂公共のみんながリラックスしている場所での撮影だな。」
「アパートはないのですね?」
「ない。見たことがないから、撮影者はマナーを心得ている。」
「庭園は?」

 ヤマザキは、ハイネが何を心配しているのか悟った。彼は妻とのデートの現場を押さえられることを心配しているのだ。

「庭園は危険だな。普通に昼寝したり、ベンチに並んで座って話をしている程度だったらパパラッチも興味を持たない筈だが、遺伝子管理局長が出産管理区長を抱きしめていたりしたら、大スクープだぞ。」
「ご忠告有り難うございます。」

 ハイネは心密かに思った。後でビル・フォーリーを呼ぼう、と。