2018年9月16日日曜日

4X’s 2 6 - 7

 夕食後、キャリー・ワグナー・ドーマーは親切にもポール・レイン・ドーマーが医療区に辿り着くまで一緒に歩いてくれた。部屋兄妹だから親しいし、お互いが大好きなので話も弾んだ。彼等を見かけた人々は羨ましげに眺めた。ドームの男の中で一番の美貌のレインと、美人医師の組み合わせだ。
 医療区のロビーで2人は別れた。別れ際、キャリーが謎めいたことをレインに囁いた。

「もしハイネ局長と意見が別れた時に、御呪いを唱えると良いわ。」
「御呪い?」

 怪訝な顔のレインに、キャリーはにっこりして、さらに声を小さくした。

「アイダ博士のお部屋のキーナンバーを何時お知りになったの?って。」

 意味がわからずにポカンと立ち竦むレインに、キャリーは「おやすみ」と手を振ってアパートへ帰って行った。
 何だかわからないまま、レインは受付を済ませ、ロボットによる形式だけの診察を受けた。そして入院の手続きを済ませ、入院病棟の指定された部屋に入った。直ぐに担当の看護師が現れ、キャリーが予告した通り、薬剤の効力を緩和させる点滴を処置された。
 1人になると昼間のことが色々頭に浮かんで来た。18年かけてやっと見つけだした恋人は、既に半分彼のものでなくなっている。それを感じて、彼は哀しかった。セイヤーズは彼の注意を常に半分息子に向けていた。全てをレインに向けてくれなかった。あの息子はなんなんだ? クローンの分際で生意気な口を利きやがって・・・
 病室の入り口の消毒ミスト噴射装置が作動する音が聞こえた。局長の到着だ。レインは寝巻きになっていることをちょっと残念に思った。仕事の時はきちんとスーツで居たかった。しかし、彼の後悔は意味がなかったことが直ぐに判明した。ベッドの横に立ったレインの前に現れたハイネ局長はラフなスウェットスーツ姿だった。ボスがスーツ姿のままだと目撃した部下達が穏やかに休息を取れない、と気遣って、彼は一旦その日の仕事から上がると私生活モードに入ったことを見た目でアピールするのだ。
 レインが挨拶しようとすると、手で座れと合図しただけだった。自分で椅子を引き寄せ、ベッドの脇に座ると、ハイネは部下を眺めた。

「代替薬剤の具合はどうだ? 短期間に2度も接種するのは、これきりだぞ。」
「承知して居ます。我儘を聞いて頂いて感謝して居ます。」

 ハイネは頷き、直ぐに本題に入った。

「セイヤーズ本人であることを確認したな?」
「はい。」
「外部との接触はどの程度だ?」
「恐らく、食糧や生活必需品の調達以外は他人との接触を最小限に控えている様子です。ドームのことは一切喋っていないでしょう。」

 ハイネはレインの目を見つめた。レインは緊張を覚えた。局長はテレパシーを持っていないが、相手の微細な表情の変化で感情を読み取ってしまう。彼は、認めたくないことを認めた。

「セイヤーズはラムゼイにクローンを作らせた模様です。」

 ハイネが頷いた。

「君達が押収したラムゼイの資料の中に、それを裏付ける記録があるのを、ケンウッド長官が発見された。」
「本当ですか!」

 レインは疑惑が真実だとわかって、何故かホッとした。彼1人で抱え込む秘密とするのは荷が重過ぎたのだ。
 ハイネが尋ねた。

「彼の息子はどんな子だ?」