遺伝子管理局内務捜査班チーフ・ビル・フォーリー・ドーマーはそろそろ「黄昏の家」に移住しようかと考えていた。体が昔に比べると動きが鈍くなったし、視力も衰えてきた。聴覚もあまり信用出来ない。だから局長から久しぶりにお声が掛かった時、厄介な案件でなければ良いが、と思った。弟子で副官のコリン・エストラーベン・ドーマーを伴って局長執務室に顔を出すと、第1秘書のネピア・ドーマーが少し嫌な顔をした。局長が呼んだのはフォーリー1人だけで、エストラーベンを呼んだのではない、と言いたい訳だ。フォーリーはネピアなんか怖くないので無視した。
局長は午後の仕事は全部終えていたので、秘書達にも帰宅して良いと言い渡してから、フォーリーを自身の執務机の側へ呼んだ。
「君はこのサイトを知っているか?」
ハイネは会議テーブルの3D画像を使わずにコンピューターのデスクトップに画像を出して見せた。フォーリーは「失礼します」と断って机の局長側に回り込み、画面を覗いた。それは「猿も木から落ちる」と題された動画で、維持班の高所での修理作業の時に起きた細やかな事故だった。足場で1人が足を滑らせ、下にいた2人の仲間を巻き添えに滑り落ちるところを撮影したものだ。幸い大した事故ではなく、ペンキを被った3人が互いの顔を指差しあって笑い合うところで終わっていた。
ああ・・・とフォーリーが唸った。
「若い連中が最近話題にしていましたな。私はアドレスを知りませんので、今初めて見ましたが。」
「私もヤマザキ博士に教えてもらったところだ。」
ハイネはエストラーベンも呼んだ。50代のエストラーベンは流石に今話題のサイトを知っていた。
「面白いですよ。他人の失敗や隙を撮影した、悪趣味と言えば悪趣味ですが、悪気のないサイトだと私は解釈しています。静止画はもっと面白いです。食堂での食事風景が多いですが、変顔特集が特に人気です。みんな、自分の変顔を撮られて悔しがりますが、本気で怒る者はいません。」
「撮影者は不明なのか?」
「はい。私はアドレスを調べましたが、個人で作ったらしく、管理者の特定が出来ません。見つけたと思ったら、巧みに複数のコンピュータを経由して姿を眩ませてしまいます。」
「保安課も調査したらしいのですが、どうも正規の通信回路を使っていないらしくて・・・」
フォーリーの言い訳にハイネが眉を顰めた。
「正規の通信回路を使用していない?」
「巧妙に機械に司令を出す回線を使ったもののようです。」
維持班には機械に詳しい者が多い。進化型1級遺伝子を持っていなくても、工学が得意な遺伝子を持っているドーマーは多いのだ。その遺伝子を持って生まれた為にドーマーに選ばれたのだから。
ハイネはパパラッチの正体を突き止めるのは辞めようと思った。
「このサイトは害はないのだろう?」
「内務捜査班としては、調査対象にしておりません。被害届けは出ていませんので。」
「それに、捜査の手助けになる場合もあります。」
既に事実上内務捜査班の指揮を執ることを許されているエストラーベンが言った。
「届けが出た事案の決定的証拠が写っている場合がありましたし、逆に何時何処で撮影されるかわからないと言う不安から、破廉恥行為を慎む執政官もいます。」
「地球人保護法違反の抑制効果があると言うのだな?」
「そうです。もっとも撮影された者から肖像権やプライバシー侵害の届出があれば、削除するようコメントで警告しますがね。」
「従ってくれているのか?」
「現在のところは素直です。」
ハイネは頷いた。覗き見される心配は拭えないが、下手に騒ぐような事案ではないらしい。
こうして、パパラッチサイトは、公認された。
局長は午後の仕事は全部終えていたので、秘書達にも帰宅して良いと言い渡してから、フォーリーを自身の執務机の側へ呼んだ。
「君はこのサイトを知っているか?」
ハイネは会議テーブルの3D画像を使わずにコンピューターのデスクトップに画像を出して見せた。フォーリーは「失礼します」と断って机の局長側に回り込み、画面を覗いた。それは「猿も木から落ちる」と題された動画で、維持班の高所での修理作業の時に起きた細やかな事故だった。足場で1人が足を滑らせ、下にいた2人の仲間を巻き添えに滑り落ちるところを撮影したものだ。幸い大した事故ではなく、ペンキを被った3人が互いの顔を指差しあって笑い合うところで終わっていた。
ああ・・・とフォーリーが唸った。
「若い連中が最近話題にしていましたな。私はアドレスを知りませんので、今初めて見ましたが。」
「私もヤマザキ博士に教えてもらったところだ。」
ハイネはエストラーベンも呼んだ。50代のエストラーベンは流石に今話題のサイトを知っていた。
「面白いですよ。他人の失敗や隙を撮影した、悪趣味と言えば悪趣味ですが、悪気のないサイトだと私は解釈しています。静止画はもっと面白いです。食堂での食事風景が多いですが、変顔特集が特に人気です。みんな、自分の変顔を撮られて悔しがりますが、本気で怒る者はいません。」
「撮影者は不明なのか?」
「はい。私はアドレスを調べましたが、個人で作ったらしく、管理者の特定が出来ません。見つけたと思ったら、巧みに複数のコンピュータを経由して姿を眩ませてしまいます。」
「保安課も調査したらしいのですが、どうも正規の通信回路を使っていないらしくて・・・」
フォーリーの言い訳にハイネが眉を顰めた。
「正規の通信回路を使用していない?」
「巧妙に機械に司令を出す回線を使ったもののようです。」
維持班には機械に詳しい者が多い。進化型1級遺伝子を持っていなくても、工学が得意な遺伝子を持っているドーマーは多いのだ。その遺伝子を持って生まれた為にドーマーに選ばれたのだから。
ハイネはパパラッチの正体を突き止めるのは辞めようと思った。
「このサイトは害はないのだろう?」
「内務捜査班としては、調査対象にしておりません。被害届けは出ていませんので。」
「それに、捜査の手助けになる場合もあります。」
既に事実上内務捜査班の指揮を執ることを許されているエストラーベンが言った。
「届けが出た事案の決定的証拠が写っている場合がありましたし、逆に何時何処で撮影されるかわからないと言う不安から、破廉恥行為を慎む執政官もいます。」
「地球人保護法違反の抑制効果があると言うのだな?」
「そうです。もっとも撮影された者から肖像権やプライバシー侵害の届出があれば、削除するようコメントで警告しますがね。」
「従ってくれているのか?」
「現在のところは素直です。」
ハイネは頷いた。覗き見される心配は拭えないが、下手に騒ぐような事案ではないらしい。
こうして、パパラッチサイトは、公認された。