2018年9月15日土曜日

4X’s 2 6 - 4

「もし本当に方程式が存在していたら、女の子は1人ではなく大勢生まれていた筈だしね。」

 ヤマザキも納得した。ハイネもベーリングの研究結果を信頼していなかった様子で、落胆しなかった。そんなことだろうと思った、と言う表情をしただけだ。
 アイダはベーリングとかラムゼイとかの名前を聞くのは初めてだった。ハイネは仕事の話を夫婦の時間に持ち出したりしないからだ。しかし彼女は口を挟まず、ケンウッドの話は出産管理区の業務に無関係だと心の中で断じた。
 ケンウッドはラムゼイの資料の話に移った。ラムゼイは既に50年近く活動していたらしく、資料が膨大で、現在のところは「どんなクローンを作ったか」から始めているところだとケンウッドは言った。男の子のクローンは、正直なところドームは興味を持っていない。女の子が欲しい客の要求に従ってラムゼイが作った女の子のクローンを調べているのだ。

「地球人の知識人の大半が、既に女の子が生まれないことに気が付いている。彼等は女の子がドームでしか生まれないことを承知していて、ドームに頼らずに女性を誕生させようと独自で研究までしているんだ。」
「ラムゼイがそう記録しているのかい?」
「うん。だから彼の顧客は金持ちで教養がある富裕層ばかりだ。」
「ドームへ行っても女の子を得られると限らないから、クローンを作りたがるんだね?」
「そうだ。それにドームは女の子を一つの家族に1人しか与えられない。娘を大勢欲しいと思う家族は、クローンに頼る。」
「姉妹、と言う単語が死語になりかけていますものね。」

 アイダが溜め息をついた。男性が姉妹を持つことはあっても、女性が姉妹を持つことはない。出産管理区で地球人女性と毎日接しているアイダはそれを痛感していた。彼女が火星にいる姉のことをつい口にすると、妊産婦達はぽかんとするのだ。

ーードクターには、お姉さんがいらっしゃるの?
ーー羨ましいわ。女の”きょうだい”ってどんなの?

「それで?」

とヤマザキが急かした。彼はちょっと空腹を感じ始めていた。

「僕等に聞いて欲しいってことは何だね?」

 ケンウッドはちょっと躊躇ってから、ハイネを見た。

「ラムゼイは17年前、3人の女の赤ん坊を中東からの客に売却している。」

 ハイネは聡い。その年月を表す数字を聞いて、眉を上げた。

「その女の赤ん坊のオリジナルは・・・」
「オリジナルなんていないんだ。その赤ん坊達は、普通の卵子と精子を受精させた普通の体外受精児だったのだよ。」

 アイダが息を呑んだ。ヤマザキもぽかんと口を開けた。ハイネもフリーズした。