2018年9月10日月曜日

4X’s 2 5 - 7

 レインは若者をもう一度振り返った。帽子からはみ出した若者の黒髪がキラキラと緑色の光を放っていた。レインは呟いた。

「人前に出すのを避けているんだな。」

 彼の言葉が聞こえなかったのか、セイヤーズはドアを開き、彼を招き入れた。レインは用心深く屋内に足を踏み入れた。昼間だったし、窓もあったが、屋内は薄暗く、外から入ったばかりの目には真っ暗に思えた。目が慣れてくると、そこには質素なリビングがあった。手作りのテーブル、椅子、棚。粗末と言えば粗末だが、機能的で使い勝手が良さそうだった。セイヤーズが自力で作ったのだ、とレインは胸がいっぱいになった。買う金はないし、作る時間はたっぷりあったのだろう。
 セイヤーズが声を掛けた。

「何か冷たい物でも飲むか、ここにも冷蔵庫くらいはあるんだぞ。」

 台所に行きかけた彼の手をレインは掴んだ。肌を通して”声”が聞こえた。

  今は駄目だ

 レインは黙って彼を引き寄せた。顔を向けた彼に言った。

「お茶を飲みに来た訳じゃない。仕事の話だ、ダリル。」
「飲みながらでも出来るだろう。逮捕される前に君とお茶を飲ませてくれ。」

 逃げたりしないよ、ポール

 レインは手を離した。セイヤーズは台所に入って行った。直に棚や冷蔵庫を開閉する音が聞こえた。レインはテーブルの上にある新聞を手に取った。一週間分の紙の新聞だ。セイヤーズはコンピュータも端末も持っていない。情報は紙の新聞で得ているのだ。ネット利用で足が付くのを防ぐ為に、機械を使わないのだ。お陰で捜索が18年もかかってしまったのだが、セイヤーズが生まれ持った進化型1級遺伝子S1の悪戯もなかったのだ。
それはダリル・セイヤーズと言う男が決して危険な人物ではないと言う証拠ではないのか。レインは微かな希望を抱いた。S1を所有する人間が宇宙軍の管理下に置かれると執政官が言っていた。だが危険でなければ地球が管理しても良い筈だ。セイヤーズは地球人なのだから。
 セイヤーズがトレイにソーダ水のタンブラーを載せて戻って来た。テーブルにそれを置いて、レインの向かいに座った。

「ビールは飲めなかったよな、ポール?」
「ああ」

  レインは喉の渇きを覚え、一口だけ飲んだ。人工甘味料の味がしたので、それ以上は飲む気が失せた。こんな毒性のある物を、ドームの外では平気で飲むのだ。セイヤーズもその悪癖に染まってしまった・・・。
 彼は仕事の話をしようとして、メーカーを思い出し、メーカーから先刻出会ったばかりの若者を思い出した。

「息子の母親はどうしたんだ、ダリル。君は婚姻登録も子孫登録もしていないが。俺は君の住まいを見つける為にあらゆる法律上の記録を調べたが、この辺鄙な土地の住所登録で君の名前を発見するまで、何一つ見つけられなかった。あの息子は婚外出生児か、それとも違法出生の子供なんだな?」