2018年9月8日土曜日

4X’s 2 5 - 4

 翌朝、かなり早い時刻に医療区に押しかけたポール・レイン・ドーマーはヤマザキ博士から文句タラタラ言われながら抗原注射を接種してもらい、その足でゲートを出ると機上の人となった。朝食は機内で済ませた。機内には早朝に自宅に帰る新しい母親達と赤ん坊が乗っていた。遺伝子管理局の人間にとって、これは当たり前の風景で、ミルク臭い機内の空気も慣れていた。朝食を終えると彼は座席で1時間ばかり眠った。同行者はいない。支局巡りに出かける部下達は一つ後の便だし、中南米へ出かける班は別の飛行機に乗っていた。レインの出張は、ゲート係とフライトスタッフしか知らないのだった。必要な休息を取る為に、彼は何も考えなかった。頭を空っぽにして目を閉じるとすぐ眠りに落ちた。これは訓練の賜物だ。ドーマー達はストレスを溜めないように、直ぐに睡眠に陥る訓練を若い時分に受ける。短い睡眠でも十分疲れを取るように自力で精神状態を調整するのだ。
だから、中西部の上空に来た時に目覚めると、頭の中は少しスッキリしていた。
 タンブルウィード空港、一般には中西部空港と呼ばれる埃っぽい空港に降り立つと、レインは支局の前に停められている黒塗りのセダンに近づいた。前日の夕刻に連絡を受けた支局が用意してくれた車だ。職員が1人、車のそばに立っていて、彼が近づくとお愛想笑いを浮かべて、朝の挨拶をした。レインは愛想が悪いがその美貌で支局の男性職員にも人気があった。愛想が悪くても親切なところがあるので、カッコイイ男なのだ。

「お一人ですか、チーフ・レイン?」
「うん。緊急の面談が一件だけだ。部下を連れてくる必要がないのだ。」

 今日出かけるチームは中西部には来ない。レインは誰にも邪魔されずにセイヤーズに会いたかった。
 キーを受け取って、彼は車内に乗り込んだ。職員は既に支局の建物に向かって歩き去ろうとしていた。レインは彼の名を呼んで引き止めた。

「例の少女は見つかったか?」

 見つかっていないことを承知で尋ねると、職員は首を振った。

「いいえ、誰も見かけた人はいません。警察も諦めた様子です。」
「砂漠に迷い込んだのかも知れんな。」
「それなら、もう生きていないかも知れません。」

 レインも首を振って同意した。

「所詮はメーカーが作ったクローンなのだろう。」

 彼は行って良しと合図して、自身もエンジンをかけた。そして街の北に連なるなだらかな岩だらけの丘陵地帯に向かって走って行った。