2019年1月6日日曜日

対面 2 1 - 1

 ポール・レイン・ドーマーが母親と対面するとハイネ局長が告げたのは、珍しく誰もが忙しくない、のんびりと午後の休憩時間を楽しんでいる時だった。その日、久しぶりにヘンリー・パーシバルが地球へ回診に来て、アメリカ・ドームにも来訪した。
 痛めた腰を気遣いながら仕事をした後、彼は図書館のサロンで友人達とお茶を飲んでいた。ヤマザキがレインの周辺で起きたストーカー事件の顛末をパーシバルに語った後だ。
パーシバルがセイヤーズの機転を聞いて満足そうに微笑んだ。

「あの子は本当に頭が良いんだ。多分、ポールと同じ位に・・・」
「レインは型通りの発想しか出来ない。だがセイヤーズは奇抜だ。そうだろ、ハイネ?」

 ヤマザキに話を振られて、チーズタルトを切り分けていたハイネが、お菓子から目を離さずに応えた。

「面白味があるのはセイヤーズの方です。」
「そりゃわかってるけど・・・」

 パーシバルは1番のお気に入りが他のドーマーの次と言うのが少々気に入らないらしい。ケンウッドは苦笑した。

「ヘンリー、もう一度ファンクラブを創設するかね?」
「否、それは・・・こっちでお断りだ。」

 パーシバルは頭を掻いた。彼が創設したドーマーのファンクラブが現在どんな状況か知っているのだ。お気に入りのドーマーを取り囲んでバカ騒ぎして遊ぶだけの軟弱組織ばかりだ。ドーマー達の仕事の便宜を図ってやったり、他の執政官の無礼な振る舞いから守ってやったり、そんな目的の為に作ったファンクラブが形骸化している。
 ハイネが切り分けたケーキを皿に取り分けて友人達に配った。ヤマザキがお茶をカップに注ぎながらパーシバルに言った。

「フラネリー大統領がストーカー君の療養を引き受けてくれた。何が起きたのか知らないままにね。」
「弟のストーカーだと知ったら、どうしただろうね?」
「どうもしやしませんよ。」

 ハイネがミルクをお茶に入れながら言った。

「キエフはもう無害な只の病人です。」
「これだから、ドーマーは・・・」

 パーシバルが苦笑した。

「肉親に危害を加えようとした人間を敬遠するのが普通ってもんだよ、ハイネ。以前君を刺した女性がいただろ? もし彼女がお産に来たら、そしてキーラがまだここで働いていたら、キーラは絶対に彼女の担当にはならない。」
「そうでしょうか?」

 ハイネは砂糖なしでミルク入りのお茶を一口飲んだ。

「セシリア・コナーズは既に出産でここに来ました。サヤカが担当して無事に男の子を出産しましたよ。結婚してテーラー姓からコナーズ姓になったのです。」

 えっ? と驚いたのはパーシバルだけではなかった。ケンウッドもヤマザキも初耳だった。ケンウッドはフォークからケーキをポロリと落としたが気がつかなかった。

「セシリアは結婚して母親になったのか!」
「ええ、昨年の6月に。」
「幸せそうだったかね?」
「サヤカの感想では、穏やかな顔つきになっていたそうです。ドームに戻ったばかりの時は緊張していたそうですが、誰も彼女の過去に触れなかったので、落ち着いて出産に臨み、赤ん坊を抱いて笑顔で帰って行ったそうです。」
「それは良かった・・・」

 ケンウッドはホッとしたが、パーシバルは黙っていた。執政官3名を死亡させたテロの実行犯だった女性ドーマーだ。騙されて、爆薬を製造させられたが、遺族にしてみれば、良い心象ではないだろう。ハイネは自身も殺害されかけたのに、彼女を許したのだ。
 ハイネはパーシバルに言った。

「母親になろうとしている彼女を見れば、キーラも余計なことを考えずに担当した筈ですよ。」
「それは・・・」

 パーシバルは肩をすくめた。

「本人に訊いてみないとわからないよ。」
「では、実の親と対面してどんな気分だったか、今夜レインが戻ったら訊いてみますよ。」

 ケンウッド、ヤマザキ、そしてパーシバルはハイネを見た。ケンウッドが思わず声を出した。

「はぁ?」