ケンウッドはグエン・バン・チュー副委員長とはあまり馴染みがなかった。チュー副委員長は地球勤務経験はあるものの、ずっと東アジア・ドームで研究していたので、接触がなかったのだ。それに宇宙に戻ってからも実務者と触れ合う仕事より宇宙での対外折衝に携わることが多い人だ。しかしケンウッドは何故かこの時、幸運だと感じた。
「チュー副委員長、一つお願いしたいことがあります。」
「アメリカ・ドームからの公式な要請ですか?」
「そうお考え下さって結構です。」
ケンウッドは形式的な挨拶は好きでなかった。すぐにズバリと要点を述べた。
「宇宙で作るコロニー人のクローンの細胞をすぐに手に入れられますか? 」
「なんだって?」
チューが眉を顰めた。ケンウッドはすぐ横で彼等の通話を聞いているJJの存在を意識しながら言った。
「コロニー人、ドームで作るクローン、宇宙で作るクローンの染色体を比較したいのです。」
「比較? 貴方が?」
チューが不審がるのも無理はない。ケンウッドはもう10年以上も研究室から遠ざかっていたのだ。だから研究着を身につけているケンウッドの姿も副委員長には珍しく思えるのだ。
そうです、と言って、ケンウッドはJJを手招きしてコンピュータの前に立たせた。
「この少女はJJ・ベーリングです。この娘はあるメーカーの夫婦が、遺伝子組み替えで生み出した地球人の女の子です。」
「えっ!」
チューが絶句した。地球人の女の子、と聞いて一瞬思考が停滞した様だ。ケンウッドは御構い無しに話を続けた。
「この娘は特殊能力を持っています。信じ難いことですが、染色体で人を識別するのです。そして、コロニー人とクローンの識別をやってのけました。私が識別の理由を訊くと・・・」
「待ちたまえ!」
チューが遮った。彼は額の汗を拭った。
「君は、その少女が染色体を識別すると言ったが、それはどう言う・・・」
するとJJが機械を通して自ら説明した。
「私には見えるの。キラキラ光るもの。一人一人違って見える。」
チューがケンウッドを見た。ふざけんなよ、とその目が言っていた。しかしケンウッドは引き下がらなかった。
「信じる信じないはこの際、脇に置いて、コロニー製のクローンの細胞が手に入るか入らないか、それをお聞きしています。比較が必要なのです。何故、クローンの女性からは男の子しか生まれないのか、その原因を突き止められるかも知れません。」
チューは憮然とした表情だったが、考えて言った。
「君も知っての通り、太陽系ではクローンで子供を持つことを許されるのは不妊治療が功を為さない夫婦に限られている。」
「卵細胞でなくても構いません。」
と言ってから、ケンウッドはJJを見た。
「構わないよね、JJ?」
JJは首を振った。ケンウッドは画面を振り返った。
「数人・・・4、5人、どこかの病院で採取出来ませんか? 健康診断の時の血液でも良いですから・・・」
チューはまだしかめっ面をしていた。しかし、彼はニコラス・ケンウッドと言う学者の人柄を知っていた。誰もが高評価を与える人物だ。決して巫山戯てはいないのだろう。例え研究が失敗に終わるかも知れなくても、彼は真面目にそれを行う。
チューは頷いた。
「わかった。一両日中にそちらへ送られるよう、努力する。」
「チュー副委員長、一つお願いしたいことがあります。」
「アメリカ・ドームからの公式な要請ですか?」
「そうお考え下さって結構です。」
ケンウッドは形式的な挨拶は好きでなかった。すぐにズバリと要点を述べた。
「宇宙で作るコロニー人のクローンの細胞をすぐに手に入れられますか? 」
「なんだって?」
チューが眉を顰めた。ケンウッドはすぐ横で彼等の通話を聞いているJJの存在を意識しながら言った。
「コロニー人、ドームで作るクローン、宇宙で作るクローンの染色体を比較したいのです。」
「比較? 貴方が?」
チューが不審がるのも無理はない。ケンウッドはもう10年以上も研究室から遠ざかっていたのだ。だから研究着を身につけているケンウッドの姿も副委員長には珍しく思えるのだ。
そうです、と言って、ケンウッドはJJを手招きしてコンピュータの前に立たせた。
「この少女はJJ・ベーリングです。この娘はあるメーカーの夫婦が、遺伝子組み替えで生み出した地球人の女の子です。」
「えっ!」
チューが絶句した。地球人の女の子、と聞いて一瞬思考が停滞した様だ。ケンウッドは御構い無しに話を続けた。
「この娘は特殊能力を持っています。信じ難いことですが、染色体で人を識別するのです。そして、コロニー人とクローンの識別をやってのけました。私が識別の理由を訊くと・・・」
「待ちたまえ!」
チューが遮った。彼は額の汗を拭った。
「君は、その少女が染色体を識別すると言ったが、それはどう言う・・・」
するとJJが機械を通して自ら説明した。
「私には見えるの。キラキラ光るもの。一人一人違って見える。」
チューがケンウッドを見た。ふざけんなよ、とその目が言っていた。しかしケンウッドは引き下がらなかった。
「信じる信じないはこの際、脇に置いて、コロニー製のクローンの細胞が手に入るか入らないか、それをお聞きしています。比較が必要なのです。何故、クローンの女性からは男の子しか生まれないのか、その原因を突き止められるかも知れません。」
チューは憮然とした表情だったが、考えて言った。
「君も知っての通り、太陽系ではクローンで子供を持つことを許されるのは不妊治療が功を為さない夫婦に限られている。」
「卵細胞でなくても構いません。」
と言ってから、ケンウッドはJJを見た。
「構わないよね、JJ?」
JJは首を振った。ケンウッドは画面を振り返った。
「数人・・・4、5人、どこかの病院で採取出来ませんか? 健康診断の時の血液でも良いですから・・・」
チューはまだしかめっ面をしていた。しかし、彼はニコラス・ケンウッドと言う学者の人柄を知っていた。誰もが高評価を与える人物だ。決して巫山戯てはいないのだろう。例え研究が失敗に終わるかも知れなくても、彼は真面目にそれを行う。
チューは頷いた。
「わかった。一両日中にそちらへ送られるよう、努力する。」