2019年1月4日金曜日

新生活 2 3 - 3

 アレクサンドル・キエフ・ドーマーは鎮静剤を打たれて眠りに落ちた。今回の事件が計画性のあるものなのか、突発的に彼が思いついたものなのか、そこのところがどうしても不明なのだった。前夜に流されたパパラッチサイトの動画や写真が彼の精神を打ちのめしたのであろうことは推測されたが、銃をいつ準備したのかわからない。分解して西ユーラシアから持ち込んだ銃を早い時期に組み立てて保管していたのか、それとも昨晩ネットを見た後で怒りに駆られて組み立てたのか。
 ゴメス少佐が西ユーラシア・ドームの武器管理に疑問を呈した。

「保有する光線銃の数をドームの保安課は把握している、それが常識だと思います。しかし、西ユーラシア・ドームはキエフが銃を持ち出したことに気がつかなかった、と言うことでしょう。キエフがどんな性質の男かは別として、ドーマーが銃を私物化して外へ無断で持ち出したことに気がつかない、これは西ユーラシア・ドーム保安課の手落ちです。」

 遺伝子管理局の証人達を帰し、入れ替わりにドーム維持班総代表ジョアン・ターナー・ドーマーと図書館長のドーマーが呼ばれた。こちらはキエフが起こした騒動で気分が悪くなったドーマー達の様子や、図書館の備品の損害に対する報告だった。ここでも維持班の人々がキエフの異常行動についてかなり以前から知っていたことが判明した。

「チーフ・レインに付きまとって、レインに話しかける人に意地悪したり、突っかかったり、おかしな奴ですよ。」
「遺伝子管理局は維持班より偉いと思っているみたいなことを言ってました。他の局員達はそんな素ぶりも見せないのに。」
「あの髭面は、他人を威嚇する為に生やしているんですよ。確かに体毛の濃い男ですけどね。」

 ターナー・ドーマーは普段は自身より遥かに年上の遺伝子管理局長に敬意を払っているが、この時ばかりは、維持班総代として対等に声をかけた。

「局長、あの男を貴方のところに置いておいても碌なことはありませんよ。局員に不協和音を与えるどころか、仲間を仲間とも思っていない、他人を傷つけるだけの男です。」

 ハイネが尋ねた。

「あの男をドームから追い出せと?」
「それ以外に策はありません。」

 ターナー・ドーマーは執政官達をちらりと見て、付け加えた。

「もっとも、ドームの外も迷惑するでしょうね。」

 ケンウッドが声をかけた。

「総代は、キエフ・ドーマーをドームから出す方が良いと考えるのだね?」
「そうです。」
「西ユーラシアに送り返す案はない?」
「西ユーラシアは厄介払いで彼を送って来たのではないですか?」
「ドーマー交換を厄介払いの手段に使ってはならない、と局長会議で決めたが?」

とハイネが言ったが、珍しく彼は自信なさそうだった。キエフは西ユーラシア・ドームのシベリア分室からやって来た。西ユーラシアには衛星データ分析官が数名いたので、選ばれたのだと、あちらのマリノフスキー局長は言ったが、わざわざシベリアから選んだのは何故だろう。

「外に出すにしても・・・」

と精神科医チームのリーダーが発言した。

「今の状態では、彼は外で暮らす術を学ぶ心理状態ではないでしょう。」
「外では生きていけないと?」
「一人では無理です。」
「だが、ドームに不要のドーマーを養う余裕はない。騒動を起こしたドーマーは『黄昏の家』の引退したドーマー達とは違うのだ。」
「それじゃ、こうしよう!」

とヤマザキが提案した。

「可哀想だが、キエフ・ドーマーから記憶を消してしまう。彼の脳を真っ白な状態に初期化して、外の精神病院に入れる。療養費はかかるが、ドーム内で幽閉状態で生活させるよりは安く済む。安全管理が省けるからね。」