2019年1月14日月曜日

対面 2 1 - 9

 ケンウッドが西ユーラシア・ドームの長官との会談を語ると、一部を除いた執政官達は大笑いした。彼等はダリル・セイヤーズ・ドーマーがマザーコンピュータをハッキングしたことを知らないし、セイヤーズは大人しくて素直な良い男だと信じている。危険値S1の本当の恐ろしさは、当人が無意識に能力を使ってしまうことだと理解していないのだ。だから女子を生める染色体を持つ男がアメリカ・ドームの所属になったことを単純に喜んでいた。
 ケンウッドは会議室の末席に座っているローガン・ハイネ遺伝子管理局長の顔を見た。ハイネは無言で肩を竦めただけだった。セイヤーズを手放さずに済んだことを彼は喜んでいる筈だが、あからさまに浮かれて見せたりしないところが、いつもの彼だった。
 臨時会議は短時間で終了する予定だったが、そこで内務捜査班と保安課からアナトリー・ギルとジュリアン・ナカイの両博士が「お勤め」でセイヤーズに不正を働いたことに関する報告が上がった。滅多に会議に呼ばれないビル・フォーリー内務捜査班チーフがゴメス少佐と共に報告して、2名の処分を求めた。
 若い執政官の中にはギルやナカイと親しい者もいる。彼等は何故2人が会議を欠席しているのかと疑問に思っていたが、告発を聞いて理由を知ると諦めた表情をした。アナトリー・ギルは傲慢だった。ポール・レイン・ドーマーに夢中になるあまり、彼の1番の理解者、最高の支持者として振る舞い、ファンクラブの先輩達すら差し置いてレインに馴れ馴れしく接した。いつかドーマー達から吊し上げを喰らうのではないかと仲間は危惧していたのだ。ギルがセイヤーズに殴られて鼻を折った時は、内心「それ見たことか」と嗤った。
 ナカイは金髪好きで知られていた。セイヤーズは金髪だ。そして綺麗だ。ナカイはギルの助っ人を頼まれたことに乗じてセイヤーズを触ろうとしたのだ。そして実際にドーマーの秘部に触れた。手袋なしで。当然セイヤーズは激怒して彼を蹴飛ばした。
 報告を聞いたハイネ局長が不快な表情を見せたので、会議室の執政官達は不安になった。局長が月の地球人類復活委員会に裁定を求める要求を出せば、本部から調査員がやって来る。話題になっている2名以外の人々の行動も調査されるだろう。
 ケンウッドが提案した。

「ギル博士とナカイ博士の言い分を聞いてみよう。行為は実際に行われたのだ。その理由をみんなの前で語ってもらおうと思う。如何かな、ハイネ局長?」

 話を振られてローガン・ハイネ・ドーマーは長官の提案を承諾した。

「どうぞ、私も是非2名の口からお聞きしたい、何故麻酔剤を使用したのかと。」