2019年1月6日日曜日

新生活 2 3 - 5

 宇宙から降りて来た脳神経外科医はキエフの記憶削除をちゃっちゃとやってしまった。終了の連絡を受けて、ケンウッドとゴーン、ヤマザキはキエフに面会に行った。アレクサンドル・キエフ・ドーマーは寝巻き姿でベッドの上に横たわり、ぼんやり天井を眺めていた。

「この前のS1のドーマーの時より簡単だったから。」

と医師は言った。

「部分削除より全部消す方が簡単ですからね。」
「会話は出来ますか?」
「言語は覚えているでしょう。食事したり、服を着たり、そう言うことは覚えています。3歳児から5歳児と同じ程度に扱って下さい。優しく扱ってあげれば、またゆっくり成長していきます。」

 彼はケンウッドを振り返った。

「新しい名前を付けてやると良いでしょう。新しい人生を始めるのですから。」

 彼が病室を出て行くと、ケンウッドはゴーンを見た。新しい名前など思い浮かばなかった。彼女がなんとかしてくれるのでは、と期待したのだ。しかしゴーンは肩を竦めて見せただけだった。2人はヤマザキを見た。ヤマザキは長官と副長官の期待を込めた目を見て、溜め息をついた。そして呟いた。

「ジャックで良いんじゃないか? ジャック・スミス。」
「そんな安直な・・・」
「おい、世界中のジャックとスミスに失礼だぞ。」

 ヤマザキはベッド際に歩み寄り、キエフに声をかけた。

「ヤァ、ジャック!」

 ケンウッドとゴーンは後を彼に任せて病室を出た。脳神経外科医が待っていた。事務方を相手に手続きを終えて、任務完了を認めるドーム長官の承認を待っていたのだ。
 ケンウッドは書類に署名をした。

「患者は明日の朝には普通に歩き回れますよ。」
「そうですか。良かった。外の病院の迎えが明後日来る予定なんです。」
「遺伝子に関係ない後天的な性格による犯罪の場合、この種の強制治療で上手く行った事例は多いです。どうか安心していただきたい。患者の余生が幸せなものになるよう、祈っていますよ。」

 ところで、と医師はケンウッドに微笑みかけた。

「私はパーシバル博士と時々一緒に仕事をしたことがあります。博士にお聞きしたのですが、あの有名な白いドーマーはこちらのドームにいるのですってね?」

 ケンウッドは戸惑った。

「彼は患者の上司です。」
「そうなんですか!」

 医師がまた微笑んだ。どうやらハイネのサインが欲しいのだろう。ゴーンも同じことを察したようで、素早く頭を働かせてくれた。

「手術の報告をハイネ局長にする必要がありますね。ドクター、ご一緒いたしましょう。」