2019年1月17日木曜日

対面 2 1 - 11

 議会が閉会した。ケンウッドはハイネとヤマザキにロビーで待つよう言って、自身の執務室に入った。書記を務めた長官第二秘書のジャクリーン・スメアから記録チップを受け取り、自身のコンピュータで議事録を作成し登録しておいた。スメアを帰して自分も部屋を出ようとしたところで、西ユーラシア・ドームから通信が入った。
 出ると西ユーラシア・ドーム長官カール・シュミットだった。あちらは深夜の筈だが、コロニー人なので時間を気にせずに働いている。何処のドームも同じだな、とケンウッドは心の中で苦笑した。

「ダリル・セイヤーズ・ドーマーの帰属問題に関して、西ユーラシア・ドームの執政官会議で結論が出た。」

とシュミットは言った。ケンウッドは彼が部下達を説得出来ると信じていたが、それでも不安は残っていた。セイヤーズの女の子を生める能力を欲しがるのは当然だ。セイヤーズを返せと言うのではないだろうか?
 敢えて陽気にケンウッドは声を掛けた。

「セイヤーズを送り返せって?」
「まさか。」

 シュミットが苦い笑いを浮かべた。

「マリノフスキー局長はセイヤーズは穏やかな性格だから心配無用と言ったが、執政官達は心穏やかでないらしい。そちらの友人にセイヤーズの素行を問い合わせた者がいて、彼が聞いた話によると、セイヤーズは執政官を殴って大怪我を負わせたそうじゃないか。なんでも、不意に体に触れただけで、殴ったとか・・・」
「うん・・・」

 ケンウッドは自分は狡い男だと思いつつ説明を加えた。

「あのドーマーは能天気で普段はぼーっとしているので、不意打ちを食らうとびっくり仰天して、弾みで相手を殴る癖があるんだ。」
「癖?」
「そうだよ。子供時代から一緒に育った部屋兄弟のドーマー達は彼に殴られないタイミングを学習して、彼と付き合っているんだ。」
「コンピュータを自在に使用出来て、その上暴力的なのか・・・」

 ケンウッドは肯定も否定もしなかった。

「元気が有り余っているんだ。」
「やはり、当方は彼の研究を遠慮する。」
「そうなのか?」
「その代わりと言ってはなんだが、白いドーマーを譲ってくれないか?」
「えっ!」

 ケンウッドの驚愕する顔を見て、シュミットがプッと吹き出した。

「冗談だよ、ケンウッド。うちにはマリノフスキーがいる。100歳のドーマーが2人もいては、煩くて堪らんだろうよ。」
「驚かさないでくれ・・・ハイネは冗談でも外に出せないよ。」
「わかっている。では、真面目に条件を伝えよう。」

 シュミット長官は簡単な交換条件を提示した。そしてケンウッドはそれを快く受け入れた。