2019年1月1日火曜日

新生活 2 2 - 5

 夕刻、ケンウッドは観察棟へ出かけた。保安課のロアルド・ゴメス少佐と若いアメリカ先住民の血を引くドーマーと一緒だった。ドーマーは保安課員だ。長身ですらりとした美しい若者だ。名前を尋ねると、アキ・サルバトーレ・ドーマーと名乗った。ゴメスは彼をジェリー・パーカー専属の監視員に任命したのだ。
 ジェリー・パーカーは医療区の病室から観察棟へ移されてから、鎮静剤を減らされ、少しずつ正気を取り戻しつつあった。ケンウッド達が部屋に入ると、彼はベッドの上に座ってぼんやりテレビを眺めていた。ドアが開いたので、彼はゆっくりと振り向いた。

「ヤァ、ジェリー。」

 ケンウッドはファーストネームで彼を呼んだ。パーカーは古代人だ。ヨーロッパアルプスの氷河で発見されたが、エジプト人の雰囲気を持った顔だ。恐らく交易か奴隷として親が旅をしている最中に遭難したのだろう。4000年の時を超えて、蘇り、成長して目の前にいる。50歳の壮年男性となって。
 汚染された外気の中で半世紀暮らして来たにしては肌が綺麗だ、とケンウッドは感想を持った。意識を失っているパーカーを検査した時に既に細胞検査をしているのだが、目覚めて動いている彼の方が活き活きしている。ラムゼイことラムジー博士は彼を大切に育ててきた。出来るだけ外に出さないように、ドーマー並みに大事にしていたのだろう。だから同年代の地球人男性と比べて肌が若いのだ。

 だが、本当に大事な人なら普通の幸福を与えるべきじゃなかったのかね、ラムジー

 ケンウッドは心の中でラムジーを批判した。ドーマーには人生の選択権がある。恋も許される。だが、この男は・・・
 パーカーがまだぼんやりとした感覚が残る頭で考えた。

「誰だ、あんたら・・・?」

 ケンウッドは名乗った。

「アメリカ・ドーム長官ニコラス・ケンウッドだ。こちらはドームの保安課長ロアルド・ゴメス、それからこちらは、君専属の監視員となるアキ・サルバトーレだ。」
「ヤァ、ジェリー。」

 ゴメスが声を掛け、サルバトーレも挨拶した。

「よろしく、ジェリー。」

 パーカーは3人を何度も交互に眺め、それからまたテレビの方へ顔を向けた。

「警察じゃないのか・・・」
「警察ではない。君を警察に引き渡す計画はない。」
「それじゃ、何で俺はここにいるんだ?」

 ラムゼイが死んだことはまだパーカーに伏せるべきだ。ジェリー・パーカーが鬱から抜け出して普通に感情をコントロール出来るように回復する迄。
 ケンウッドは言った。

「君にはラムゼイ博士の研究の分析を手伝ってもらう。」
「俺に博士を裏切れと?」
「地球を救う手伝いをしてくれと言っているのだ。今の地球がどう言う状態か、博士から聞かされていたのだろう?」

 パーカーは返事をしなかった。俯いて、微かに微笑しただけだった。
 ゴメスが声を掛けた。

「君は暫くこの建物の中で暮らす。医療チェックを受けたり、中央研究所の研究対象とされるだろうが、彼等は君の体を傷つけたり苦痛を与えることはない筈だ。君が研究に協力的な態度を示してくれれば、建物の外に出られる。ドーマー達と同じ生活が出来る。それまでは、窮屈だろうが、このサルバトーレを監視につける。君が自虐行為に出たり、ドームの秩序を乱す行いをしないよう見張る。」

 パーカーが黙り込んでいるので、ケンウッドは呼びかけた。

「ジェリー、我々は君と敵対したくない。君を虐待などしない。信じて欲しい。」

 パーカーが何かもごもごと呟いた。ケンウッドは彼に近づいた。

「何て言ったのかね?」

 パーカーが顔を向けた。ドーマーと比べると健康的に日焼けしている、とケンウッドは思った。パーカーが尋ねた。

「さっき、ドーマーと同じ生活と言ったか?」
「ああ、そうだよ。」
「つまり・・・」

 パーカーはまた微かに微笑した。

「一生ここで飼い殺すつもりなんだな?」