2019年1月29日火曜日

暗雲 2 1 - 8

 送迎フロアから遺伝子管理局本部へ戻りながらハイネは先刻外の世界からもたらされた気分の悪いニュースについて考えていた。外の世界の出来事に一切口を挟むな、考えるな、と教えられて生きてきたが、若いクローンがクローンだと言うだけで酷い扱いを受けたとすれば、許し難い生命への冒涜だ。ドームの観察棟に収容して遺伝から来る病気の治療を施して外の世界に戻してやったクローンの子供達が同じ目に遭わされるかも知れないと思うだけで、恐ろしくなった。
 
 例えクローンと云えど、外から来たと云えど、一度はこのドームで暮らした子供は全て私の子供だ。

 守らねばならない。ハイネは歩調を早めた。途中で彼とすれ違った人々は、ローガン・ハイネの全身から怒りの炎が立ち昇っているかの印象を受け、遺伝子管理局長を怒らせたのは、何処の阿呆だろう、と思った。
 遺伝子管理局本部に戻ったハイネは自身の執務室に入ると、すぐにコンピュータを操作して、連邦捜査官から見せられたニュース映像を検索した。そして無残な遺体の画像を眺め、やがて端末を出して、ロアルド・ゴメス保安課長に電話をかけた。

「ゴメス・・・」
「ハイネです。ゴメス課長、お手数をおかけしますが、ジェリー・パーカーを私の執務室迄連れて来ていただけますか?」

 ハイネの馬鹿丁寧な要請に、ゴメスが一瞬面食らった。

「パーカーを遺伝子管理局に連行しろと言われたか?」
「連れてきて下さい。彼に業務上の協力を頼みたいのです。」
「今すぐ?」
「今すぐ。」

 ハイネが業務で誰かに何かを要請する時は、まず断られることを考えていない。自身の仕事が全てに最優先だと信じている。ゴメスはドーム勤務を始めた当初に、知り合った執政官にそう教えられた。ローガン・ハイネに逆らうことは地球人を敵に回すことと見なされる、とその執政官は彼を脅かしたのだ。もっともゴメスには断る理由がなかった。ジェリー・パーカーはケンウッド長官が月の地球人類復活委員会本部に出張している為研究助手の役目がお休みで、その日は朝から観察棟でダラダラしていた。

「了解した。では着替えさせて連れて行く。寝巻き姿では外を歩けないからな。」

 電話を終えると、ハイネはちょっと考え、ポール・レイン・ドーマーの端末に電話をかけた。普段はすぐに出るレインが、その時に限ってかなり時間が経って、ハイネが電話をキャンセルしようと思った途端にやっと出た。

「レインです・・・申し訳ありません、遅くなりました。」

 画像は出さないで声だけの通話だ。 そう云えば、レインはこの日「お勤め」が当たっていた。何時からやっているのだ? とハイネは疑問を感じながら、彼にすぐに執務室に来るようにと声がけした。