2019年1月2日水曜日

新生活 2 2 - 6

「それで、貴方はパーカーに何と答えたのです?」

 ハイネがウィスキーのグラスを唇から離して尋ねた。久しぶりにアパートの最上階にある彼の部屋にケンウッドとヤマザキが集まっていた。ペルラ・ドーマーは来ない。彼が来る日は決まっていて、月に一回だけだ。ヘンリー・パーシバルはこの1月地球に来ていない。彼はコロニーで職場のスポーツ大会に出て腰を痛めたのだ。年齢を考えろよとヤマザキに通信で叱られていた。
 ケンウッドはワインを一口飲み下してから答えた。

「何も。実際にここで暮らして理解してもらうしかないと思ったんだ。」
「頭の良い男だから、下手なことを言うとあれこれ裏を考えるだろうしね。」

とヤマザキがケンウッドの方針に賛同した。
 ハイネはまだパーカーと面会していなかった。遺伝子管理局としてパーカーを逮捕したが、その後の処分については管轄外だから、彼は興味を持たないのだ。何故そうはっきり割り切れるのか、ケンウッドは時々不思議に思う。50年前の事件の捜査をした当人でもあるのに、ラムジー博士が死亡したと知ったら、もう過去のことにしてしまっている。
 恐らく、毎日膨大な数の人間の誕生と死亡を扱っているので、一々一人の人間の人生に構っていられないのだろう。そう言えば、ヘンリー・パーシバルが病気で退官を余儀なくされた時、ハイネは悲しんだが、彼が地球から去るとその時点から彼が存在しなかったかのように振舞っていた。キーラ・セドウィックが引退した時も同じだ。娘が去ることに感情を昂らせないよう努力しているのが見え見えだったが、彼女がドームの出口へ通じる回廊に入った途端に、もう平然と日常業務に就いていた。
 あまりにも多くの人間が彼の側から去って行ったので、彼は自己防衛の為に気にしないことにしたのであろう。ケンウッドはそう思うことにした。

「パーカーを研究対象とされるのでしたら、『お勤め』もさせるのですか?」

 ズバリと訊かれてケンウッドは戸惑った。ラムゼイはパーカーの精子を使ってクローンや違法な体外受精児を作って大儲けしていた。パーカーはセイヤーズと違って危険因子を持っていないから自然なままの女の子供を作れる唯一の地球人男性だ。

「当然、させるだろうな。」

 ヤマザキがケンウッドの代わりに答えた。

「だが、ただ女の子を作るんじゃない。彼とドーマー達の違いを見つけなければならないんだよ。ドーマー達、つまり現代の地球人男性が何故女の子を作れないのか、原因究明をしなければならない。その為に、彼がオリジンであることが重要な意味を持つんだ。」
「JJがきっと手伝ってくれる。」

 ケンウッドは呟いた。

「あの子はきっと違いが見えるんだ。」