2019年1月3日木曜日

新生活 2 3 - 2

 ケンウッドが発砲事件を知った時、既に事件は解決収束していた。発砲したアレクサンドル・キエフ・ドーマーは拘束され、観察棟で厳重な監視の下に幽閉された。同じ観察棟に収容されているクローンの子供達とジェリー・パーカーはキエフが収容された部屋がある一番奥の区画には決して立ち入らないように言い聞かされた。
 パーカーはキエフを知らなかった。説明をした保安課員から、「お前達が誘拐し損なった男だ」と言われても、全く心当たりがなかった。彼が手下に命令して誘拐したのはポール・レイン・ドーマーだけだったからだ。

「そいつがなんで閉じ込められたんだ?」

と質問したが、保安課員は発砲事件を収容者達に教えるなと命じられていたので、「錯乱したからだ」としか答えなかった。
 実際、キエフは錯乱していた。チーフを取り返すんだ、と繰り返すばかりで埒があかなかった。

「レインのストーカーだったともっぱらの噂です。レインがセイヤーズと同棲を始めた上に、ベーリング嬢と仲良くしている様子がネットで流されたのを見て、逆上したと思われます。」

 ヤマザキは精神科医のチームからそう報告を受けた。それをヤマザキはケンウッドに報告した。
 ケンウッドはハイネを執務室に呼んだ。保安課長ゴメス、ヤマザキと精神科医チームが並んで座っているところへ、遺伝子管理局長が現れたのは午後のお茶の時間が近く頃だった。
 ヤマザキがハイネに、キエフに最近異常行動はなかったかと質問した。ハイネは、自身はあまりキエフと接触がないので、部下を呼んでもよろしいかと尋ねて、ケンウッドの許可をもらった。やって来たのは、レイン、ワグナー、ルーカス、ハイデッカーの4名だった。第2チームと第3チームは外へ出かけているので、残っているチームリーダーとチーフが来た訳だ。
 ヤマザキはレインを外した3名にキエフの最近の様子を尋ねた。そしてキエフがレインと親しく口を利く同僚に対して異常な嫉妬心を抱き、すぐに喧嘩をふっかけていたこと、セイヤーズに脅迫とも取れる言動を取ったこと、レインにくっついて行動したがることなどの証言を得た。しかし、JJ・ベーリングとは事件当日が初めて顔を合わせたのだ。

「JJは観察棟か中央研究所から出たことがなかった。今朝、初めて図書館に出かけたのだ。彼女が出かけることは公表されていなかった。何故キエフは彼女を襲撃したのだ?」
「偶然見かけたのでしょう。」
「しかし銃を用意していた。」

 キエフの銃はセント・アイブスからワグナーと共に帰投した時点で保管庫に返された筈だった。すると、保安課が気まずそうに言った。

「あの銃は西ユーラシアで登録されていました。キエフがこちらへ異動した時に分解して持ち込んだ物と判明しました。入国の際に見落とした保安課の落ち度です。申し訳ありません。」
「何年前の話です?」

 ハイネがゴメスに言った。

「今まで彼は使わずに保管していたのですか。我々は知らぬうちに爆弾を抱えていたのですな。」