2019年1月17日木曜日

対面 2 1 - 12

 翌朝、ローガン・ハイネは朝食を終えて局長執務室に入ると直ぐにダリル・セイヤーズ・ドーマーの端末にメッセージを送った。朝食後に局長執務室に顔を出すようにと要請したのだ。2名の秘書は彼が少し嬉しそうなのを眺め、何があったのだろう、と思った。
 ハイネは日課のファイルを開くと、猛スピードで仕事を始めた。出来るだけセイヤーズと落ち着いて話をしたかったので、通常業務を早く終わらせたかった。
 1時間後にセイヤーズがやって来た。ハイネはまだ少し片付ける書類が残っていたので彼を待たせて、最後のリスト移動に取り掛かった。
 セイヤーズは神妙な顔で座って待っていた。第1秘書のネピア・ドーマーが時々鋭い視線を投げかけるので、ドキドキしているのだ。ネピアは能天気な脱走者が彼と同じ秘書になったのが気に入らない。これから秘書会議で度々顔を合わせるだろう。その時に能天気な意見を聞かされたり、お気軽に反対されたりすると想像しただけで腹が立った。
 ネピアの顔が怖いので、セイヤーズは何か叱られるのだろうか、と不安になっていた。
第2秘書のアルジャーノン・キンスキーは先輩と部下の間に奇妙な緊張感が生じていることに気が付いて、内心溜め息をついた。またネピアの後輩苛めだ。威圧的な視線を投げかけるだけで後輩を萎縮させてしまう。可哀想に・・・
 ハイネが最後の書類を支局に送信してから、セイヤーズに顔を向けた。

「待たせてすまなかった。しかし、朗報だから、辛抱してくれるな?」
「朗報ですって?」
「そうだ。」

 ハイネがにこりとした。

「西ユーラシア・ドームから君の帰属問題に関する返事が来た。」

 セイヤーズの心臓がドキンっと鳴った。そうだ、この問題が残っていた。彼は西ユーラシアに籍を置いたまま脱走していたのだ。

「アメリカに残りたいのであれば帰還を無理強いしないから、アメリカに残れと言うことだ。」
「!」
「条件は、これからアメリカ・ドームで採取する君の遺伝子を年に1度、西ユーラシアに譲って欲しいと言う、それだけだ。勿論子種は冷凍で送る。」
「・・・わかりました・・・」
「不満か?」
「いいえ!」

 セイヤーズは大きく首を振って見せた。

「ただ、帰属問題をすっかり失念していたので、驚いています。」
「君は相変わらず能天気だなぁ。」

 その時、プリンターがピーッと鳴って書類を数枚吐きだした。ハイネはそれらを手に取って目を通してから、セイヤーズに差し出した。

「西ユーラシアへの転出届け、アメリカへの転入届け、それぞれの遺伝子管理局への離任、転任願いと、遺伝子管理に関する各長官への委任状、全てに君自身の手で署名して提出すること。今ここで書いても良いぞ。」

 19年前、リン長官によって転属させられた時も同じ書類に署名させられた。あの時は強制だった。今は大喜びで書ける。セイヤーズは場所を借りて書類に目を通し、所定の場所に署名した。それを受け取ったハイネ局長は、もう1度署名を確認して、書類を机に置いた。そして手を差し出した。

「改めて言おう、お帰り、ダリル・セイヤーズ・ドーマー。」
「有り難うございます。またお世話になります。」