ジェリー・パーカーと面会した様子をポール・レイン・ドーマーとダリル・セイヤーズ・ドーマーが報告書にしてハイネ局長に提出したのは夕食後だった。ハイネはあまり関心がないのか、一読すると直ぐにケンウッドに転送した。ケンウッドはパーカーが一時的に取り乱したものの直ぐに平静を取り戻したことを知り、ひとまず胸をなでおろした。恐らく元は気力がしっかりした男なのだろう。レインがパーカーの証言と彼自身がラムゼイに触れられた時に感じた恐怖について書いていたが、それはケンウッドも関心を持てなかった。
自身のクローンを作って、脳を移植し、永遠の命を保ちたいと願う富豪がいる。
クローンも生まれた以上は人間だ。それは宇宙でも地球でも法律上認められた権利だった。だから、この異常な思想の実行は地球でも犯罪に値する。ドームが介入することは出来ないが、ドームの外の警察は捜査出来る。ケンウッドはこの報告書をセント・アイブスの様な地方警察ではなく、アメリカ連邦捜査局の方へ送った。
どの富豪がラムゼイの殺害に関与しているか不明なのに、騒ぐことは出来ない。
それに女性誕生の研究とは関わり合いがない。だからケンウッドはこの件に関しては意識の外へ蹴り出してしまった。彼にとって大事なのは、ジェリー・パーカーが精神的に打撃を受けたこと、そのダメージの深さだった。平静を保っているが、本当の心の傷の深さは目に見えない。ケンウッドは監視員のアキ・サルバトーレ・ドーマーに細心の注意を払ってパーカーを見守るよう念を押した。
サルバトーレはパーカーの部屋の向かいに設けられた控え室で寝泊まりする。控え室にはモニターがあり、パーカーの部屋の内部が24時間映し出されている。補助要員がサルバトーレの休憩時間を補うが、一日の大半を彼は一人で見張るのだ。
中央研究所はパーカーに数十人分の遺伝子マップを渡して、コロニー人と地球人に分ける宿題を与えた。実はJJが既に選り分けたものなのだが、パーカーの暇つぶしとクローン製造者としての自覚を蘇らせる目的があった。
パーカーがあまり熱心でない様子で遺伝子マップを眺め、やがて分析装置の使用許可を求めてきた時、執政官達はこの男が天才的クローン学者サタジット・ラムジー博士の一番弟子なのだと悟ることとなった。パーカーは、遺伝子マップを見て、元の人間がクローンを作るのに適しているか否かを分類した。
「こいつのクローンはひ弱だ。生まれる子供は長生き出来ない。だから、依頼は断る。生まれる子供が可哀想だ。何故かって? こいつの遺伝子に病気に罹りやすい因子があるからだよ。」
「こいつは、双子が出来やすい家系だな。クローンには関係ないが、人工授精したら、この男の子供はきっと半分は双子になるぜ。」
パーカーは地球人とコロニー人の区別は出来なかったが、遺伝子マップごとの情報は読み解いて行った。それでケンウッドは最初からコロニー人と地球人に分けたグループを見せて、違いがわかるかと訊いてみた。パーカーはじっと分析器の結果を眺め、それから呟いた。
「重力の耐性に関する遺伝情報の部分が違うのかな・・・俺はコロニー人のクローンを作ったことがないので、わからん。」
「君が言う通り、重力耐性の部分が微妙に異なる。しかし、これは地球に女性が生まれない理由とは関係ないのだ。」
「そいつは残念だったな。あんたらが200年かかってまだ見つけられない物を、俺がここで見つけられる筈がないじゃないか。」
ケンウッドは、パーカーが遺伝子に関する作業をしている間は機嫌が良いことに気が付いた。きっと余計なことを考えずに済むからだろう。
ハイネが提案した通り、研究に加えてやった方が、この男は落ち着くのだな。
自身のクローンを作って、脳を移植し、永遠の命を保ちたいと願う富豪がいる。
クローンも生まれた以上は人間だ。それは宇宙でも地球でも法律上認められた権利だった。だから、この異常な思想の実行は地球でも犯罪に値する。ドームが介入することは出来ないが、ドームの外の警察は捜査出来る。ケンウッドはこの報告書をセント・アイブスの様な地方警察ではなく、アメリカ連邦捜査局の方へ送った。
どの富豪がラムゼイの殺害に関与しているか不明なのに、騒ぐことは出来ない。
それに女性誕生の研究とは関わり合いがない。だからケンウッドはこの件に関しては意識の外へ蹴り出してしまった。彼にとって大事なのは、ジェリー・パーカーが精神的に打撃を受けたこと、そのダメージの深さだった。平静を保っているが、本当の心の傷の深さは目に見えない。ケンウッドは監視員のアキ・サルバトーレ・ドーマーに細心の注意を払ってパーカーを見守るよう念を押した。
サルバトーレはパーカーの部屋の向かいに設けられた控え室で寝泊まりする。控え室にはモニターがあり、パーカーの部屋の内部が24時間映し出されている。補助要員がサルバトーレの休憩時間を補うが、一日の大半を彼は一人で見張るのだ。
中央研究所はパーカーに数十人分の遺伝子マップを渡して、コロニー人と地球人に分ける宿題を与えた。実はJJが既に選り分けたものなのだが、パーカーの暇つぶしとクローン製造者としての自覚を蘇らせる目的があった。
パーカーがあまり熱心でない様子で遺伝子マップを眺め、やがて分析装置の使用許可を求めてきた時、執政官達はこの男が天才的クローン学者サタジット・ラムジー博士の一番弟子なのだと悟ることとなった。パーカーは、遺伝子マップを見て、元の人間がクローンを作るのに適しているか否かを分類した。
「こいつのクローンはひ弱だ。生まれる子供は長生き出来ない。だから、依頼は断る。生まれる子供が可哀想だ。何故かって? こいつの遺伝子に病気に罹りやすい因子があるからだよ。」
「こいつは、双子が出来やすい家系だな。クローンには関係ないが、人工授精したら、この男の子供はきっと半分は双子になるぜ。」
パーカーは地球人とコロニー人の区別は出来なかったが、遺伝子マップごとの情報は読み解いて行った。それでケンウッドは最初からコロニー人と地球人に分けたグループを見せて、違いがわかるかと訊いてみた。パーカーはじっと分析器の結果を眺め、それから呟いた。
「重力の耐性に関する遺伝情報の部分が違うのかな・・・俺はコロニー人のクローンを作ったことがないので、わからん。」
「君が言う通り、重力耐性の部分が微妙に異なる。しかし、これは地球に女性が生まれない理由とは関係ないのだ。」
「そいつは残念だったな。あんたらが200年かかってまだ見つけられない物を、俺がここで見つけられる筈がないじゃないか。」
ケンウッドは、パーカーが遺伝子に関する作業をしている間は機嫌が良いことに気が付いた。きっと余計なことを考えずに済むからだろう。
ハイネが提案した通り、研究に加えてやった方が、この男は落ち着くのだな。