2019年1月27日日曜日

暗雲 2 1 - 6

「どっちを選ぶか、そんなことはまだ今のハイネには問題じゃないかも知れない。」

 ケンウッドは言った。

「女の子の誕生が成功しそうな時に、彼はドームが永久に続くとは考えていないだろう。」
「それに地球人の遺伝子の原型を持つ男も現れたしね。」

 パーシバルは妻を振り返った。

「君は知っていた? ラムジーが盗んだものが、細胞ではなく、赤ん坊そのものだったってこと?」
「ええ・・・」

 キーラ・セドウィックはちょっぴり申し訳なさそうな顔をした。

「上司は直接私に言わなかったけれど、局長・・・当時は捜査官ね、ローガン・ハイネと話をしていたわ。私に聞こえても気にしなかった。信用されていたと思うの。だから私はずっと黙っていた。」
「しかし、赤ん坊の宇宙旅行は禁止だろ?」
「それが法律に抜け穴があるのよ。ラムジーは書類を偽造して、女性コロニー人研究者が地球人との間に子供を産んだことにしたの。一人、退職して宇宙に帰った女性がいて、彼女は妊娠なんかしていなかったのだけど、ラムジーは彼女が出産したことにしてしまったのね。父親が地球人だから、子供は地球に返還されると言う法律を利用して、赤ん坊を地球に連れて行ってしまった。きっとドーム空港で雇った子守に手渡したのよ。執政官は入国の時、ドームに持ち込まない荷物を外の人間にこっそり手渡すことが多かったから・・・」
「まさか、密輸?」

 パーシバルもケンウッドもその話は聞いたことがあった。違法薬物などの密輸を試みる人間はいつの時代もいる。

「父親の偽造身分証を持った子守が、入国管理事務所を誤魔化したのね。」
「それでは、シェイも・・・」

とケンウッドは呟いた。キーラとパーシバルが怪訝な顔で見たので、説明した。

「ラムジーはジェネシスとして使っていたコロニー人女性を連れていたのだが、パーカーやクロエル、セイヤーズが言うには、彼女は赤ん坊の時からラムジーに育てられていたそうだ。ラムジーは彼女を金で買ったと言ったそうだ。」
「人身売買の被害者か・・・」

 パーシバルが痛ましそうな顔をした。同胞を物品扱いする人間の存在が許せないのだ。

「クローン製造と販売も人身売買よ。」

 キーラが腹立たしそうに呟いた。

「地球が正常に戻れば、少しはましになると信じるわ。」