もう一人、ハイネは電話をかけた。ダリル・セイヤーズ・ドーマーだ。レインの秘書になってどうやら仕事を覚えて新生活に慣れてきているらしい。この男はラムゼイが殺害された理由にこだわっている。彼のこだわりは、ハイネの悩み事にも繋がる。クローンの子供を殺害した連中の正体を掴むことと、ラムゼイ殺害の犯人を見つけることが繋がるような気がするのだった。
セイヤーズは一日の仕事を終えて運動施設に行こうとしていたのだろう。局長に呼び出しを食らってがっかりしていた。ハイネは気にしなかった。セイヤーズの心のモヤモヤを払ってやる機会になるのだ。
ハイネは秘書達に帰っても良いと言ったが、第2秘書のキンスキーは残りますと答えた。それでハイネは第1秘書のネピアを帰らせた。
レイン、セイヤーズ、そしてパーカーはほぼ同時にやって来た。誘い合わせたのではなく、偶然部屋の前で出会したのだ。パーカーを連れて来たゴメス保安課長は遺伝子管理局本部の中だし局員が2名いるし、局長も秘書も武道の達人なので、自身は用無しと判断した。それでハイネに目で挨拶すると、パーカーを置いて立ち去った。セイヤーズは好奇心で室内を見回し、レインはと言うと、疲れた表情で立っていた。ハイネが着席を促すと、彼等はパーカーを挟む形で会議テーブルの前に座った。
ハイネは時間を無駄にするのは嫌いだったので、いきなり本題に入った。
「夕食前で申し訳ないが、見て欲しい画像がある。」
3人の前にあるテーブルの上に3次元画像が浮かび上がった。立体的に見えるので、本物みたいだ。それは人間の腐乱死体だった。
セイヤーズが思わず顔を背け、レインは無言で画像を眺め、パーカーも顔をしかめたがしっかりと画像を見た。ハイネは説明した。
「昨日、プリンスエドワード島の南部の海岸で発見された遺体だ。腐敗が進み身元を特定出来る物を身につけていなかったので、警察が地元の遺伝子管理局の協力を求めてきた。
支局がサンプル採取して検査したところ、この遺体の遺伝子記録は出産管理区にはなかった。」
「では、メーカーのクローンですね。」
とレイン。ハイネは頷いた。
メーカーは自分達が創ったクローンの記録を残さないことが多い。遺伝子管理局は親の遺伝子を追跡出来るが、クローン自身の特定は困難になる。親が自分の細胞をメーカーに提供して創らせる場合はまだましだ。他人の細胞から創ったクローンを購入したケースでは、子供の身元は全くわからない。
ハイネは続けた。
「数件のクローン保護施設に当たったところ、トロントの施設で該当する記録が見つかった。2ヶ月前に親と共に逮捕され、施設に保護された少年で、FOKの襲撃の際に拉致され、行方不明になっていた子だ。解剖したが死因は不明だ。しかし、殺害されたと推測される状態だった。」
画像の死体の頭部が拡大された。セイヤーズは正視出来なかった。流石にレインもパーカーも顔を背けたり、目のやり場に困った。
「死体には脳がなかった。摘出されていたのだ。」
パーカーが微かに唸った。ラムゼイ博士がクローンの肉体に脳を移植する構想を持っていたことを思い出したのだ。
「FOKは、クローンの解放ではなく、人体実験をやっているのか?」
「彼等は過去に合計14人のクローンの子供を攫った。攫われたのは、ハイティーンの少年ばかりだ。体の大きさは大人と同じだ。これはどう言う意味を持つと思う?」
「まがい物のテロリスト。」
とレインが呟いた。
「大義を唱えながら、実際は子供を何かに利用しているだけなのでは?」
「テロリストが子供を攫うのは、大概は兵士にする為でしょう。」
とセイヤーズ。
「でも言うことを聞かない罰として殺害したにしては、余りにも酷いです。」
「脳を取り出す罰があるものか。」
「子供は実験の材料だ。」
パーカーがレインの意見に同意した。
「動物実験で成功したので人間で試したくなったんだろうよ。」
ハイネはパーカーを見た。
「ラムジーはどの段階まで脳移植の研究をしていたのだ、パーカー?」
「博士は空想の段階で留まっていたんだ。動物実験すらしていなかった。本当だ。本業が忙しくて、医学実験なんてする暇はなかった。それに、あの人は生命を創るのが商売だ。子供を殺してしまうような研究なんてやらなかった。」
「だが、レインが押収したチップの中には、脳移植について語る博士の映像もあったぞ。 脳移植は宇宙では不可能ではない手術だ。コロニー人のラムジーには難しくなかったのではないのか?」
「博士は遺伝子学者だったが、外科医じゃなかった。」
パーカーは渋々ながら告白した。
「金持ちの中には脳移植で若い肉体を手に入れたいと言う連中がいるのは事実だ。エクササイズや薬剤でアンチエイジングするのに飽きた連中だ。そいつ等が、博士に、脳移植用のクローンを創れって言ったんだ。」
セイヤーズは一日の仕事を終えて運動施設に行こうとしていたのだろう。局長に呼び出しを食らってがっかりしていた。ハイネは気にしなかった。セイヤーズの心のモヤモヤを払ってやる機会になるのだ。
ハイネは秘書達に帰っても良いと言ったが、第2秘書のキンスキーは残りますと答えた。それでハイネは第1秘書のネピアを帰らせた。
レイン、セイヤーズ、そしてパーカーはほぼ同時にやって来た。誘い合わせたのではなく、偶然部屋の前で出会したのだ。パーカーを連れて来たゴメス保安課長は遺伝子管理局本部の中だし局員が2名いるし、局長も秘書も武道の達人なので、自身は用無しと判断した。それでハイネに目で挨拶すると、パーカーを置いて立ち去った。セイヤーズは好奇心で室内を見回し、レインはと言うと、疲れた表情で立っていた。ハイネが着席を促すと、彼等はパーカーを挟む形で会議テーブルの前に座った。
ハイネは時間を無駄にするのは嫌いだったので、いきなり本題に入った。
「夕食前で申し訳ないが、見て欲しい画像がある。」
3人の前にあるテーブルの上に3次元画像が浮かび上がった。立体的に見えるので、本物みたいだ。それは人間の腐乱死体だった。
セイヤーズが思わず顔を背け、レインは無言で画像を眺め、パーカーも顔をしかめたがしっかりと画像を見た。ハイネは説明した。
「昨日、プリンスエドワード島の南部の海岸で発見された遺体だ。腐敗が進み身元を特定出来る物を身につけていなかったので、警察が地元の遺伝子管理局の協力を求めてきた。
支局がサンプル採取して検査したところ、この遺体の遺伝子記録は出産管理区にはなかった。」
「では、メーカーのクローンですね。」
とレイン。ハイネは頷いた。
メーカーは自分達が創ったクローンの記録を残さないことが多い。遺伝子管理局は親の遺伝子を追跡出来るが、クローン自身の特定は困難になる。親が自分の細胞をメーカーに提供して創らせる場合はまだましだ。他人の細胞から創ったクローンを購入したケースでは、子供の身元は全くわからない。
ハイネは続けた。
「数件のクローン保護施設に当たったところ、トロントの施設で該当する記録が見つかった。2ヶ月前に親と共に逮捕され、施設に保護された少年で、FOKの襲撃の際に拉致され、行方不明になっていた子だ。解剖したが死因は不明だ。しかし、殺害されたと推測される状態だった。」
画像の死体の頭部が拡大された。セイヤーズは正視出来なかった。流石にレインもパーカーも顔を背けたり、目のやり場に困った。
「死体には脳がなかった。摘出されていたのだ。」
パーカーが微かに唸った。ラムゼイ博士がクローンの肉体に脳を移植する構想を持っていたことを思い出したのだ。
「FOKは、クローンの解放ではなく、人体実験をやっているのか?」
「彼等は過去に合計14人のクローンの子供を攫った。攫われたのは、ハイティーンの少年ばかりだ。体の大きさは大人と同じだ。これはどう言う意味を持つと思う?」
「まがい物のテロリスト。」
とレインが呟いた。
「大義を唱えながら、実際は子供を何かに利用しているだけなのでは?」
「テロリストが子供を攫うのは、大概は兵士にする為でしょう。」
とセイヤーズ。
「でも言うことを聞かない罰として殺害したにしては、余りにも酷いです。」
「脳を取り出す罰があるものか。」
「子供は実験の材料だ。」
パーカーがレインの意見に同意した。
「動物実験で成功したので人間で試したくなったんだろうよ。」
ハイネはパーカーを見た。
「ラムジーはどの段階まで脳移植の研究をしていたのだ、パーカー?」
「博士は空想の段階で留まっていたんだ。動物実験すらしていなかった。本当だ。本業が忙しくて、医学実験なんてする暇はなかった。それに、あの人は生命を創るのが商売だ。子供を殺してしまうような研究なんてやらなかった。」
「だが、レインが押収したチップの中には、脳移植について語る博士の映像もあったぞ。 脳移植は宇宙では不可能ではない手術だ。コロニー人のラムジーには難しくなかったのではないのか?」
「博士は遺伝子学者だったが、外科医じゃなかった。」
パーカーは渋々ながら告白した。
「金持ちの中には脳移植で若い肉体を手に入れたいと言う連中がいるのは事実だ。エクササイズや薬剤でアンチエイジングするのに飽きた連中だ。そいつ等が、博士に、脳移植用のクローンを創れって言ったんだ。」