月におけるケンウッドのバイオインフォマティクスの講義はスクリーン上に映し出された多くのヒトゲノムの配列アラインメントを眺めるところから始まった。
「これは、JJ・ベーリングが分類した配列アラインメントです。左のグループから、コロニー人、ドーム内クローン、ドーム外クローン、全て女性のものです。
ミスは一つもありません。彼女は見事に分類しました。」
場内がかすかにざわめいた。誰が見ても、その差がわからない。
次の画像が映し出された。これも配列アラインメントだ。
「これは、男性のものです。左からコロニー人、ドーマー、ドーム外の男性、それから、一番右側のグループはかなり特殊です。上がジェリー・パーカー、下がダリル・セイヤーズ・ドーマーです。」
「個人を特定したのですか?」
会場から上がった質問の声に、ケンウッドは頷いた。
「彼女は、ここに映っている配列アラインメントの主全員を特定出来ます。」
「どうやって?」
「目で見ています。それだけです。」
「信じられない!」
ケンウッドは、月にある「地球人類復活委員会」の会合で研究成果の発表を依頼された。彼は「成果とは言えないが」と断って、この「大発見」を公表したのだ。
会場内のざわめきを気にも留めずに、彼は続けた。
「彼女が言うには、ジェリー・パーカーとダリル・セイヤーズ・ドーマーは、コロニー人と同じだそうです。しかし、セイヤーズは第3グループのクローン女性から生まれた子供で、父親は第3グループに属する地球人男性です。本来ならば、父親と同じグループに入っていなければならないのです。」
「何故、コロニー人と同じゲノムを持つことになったのです?」
「彼は進化型1級遺伝子を母親から受け継ぎました。恐らく、その遺伝子が彼の生殖細胞を『原型』へ戻したのだと思われます。」
「『進化』ではなく、『先祖返り』?」
「私は、『修復』だと考えています。」
「セイヤーズが『修復』されているとすれば、パーカーはどうなるのです?」
「それが・・・」
ケンウッドは少し言い淀んだ。ここでハイネが語った「真実」を明かす訳には行かない。パーカーを守らねばならないのだ。パーカーが宇宙へ連れて行かれないように。
「よくわからんのです。」
「わからない?」
「彼は、サタジット・ラムジーが製造したクローンです。遺伝子管理局が押収したラムジーの情報チップを解析したところ、パーカーの人工子宮内での成長過程が記録されている項がありました。それによると、ラムジーは胚が細胞分裂を開始してから一度も遺伝子に手を加えていない。だが、彼は進化型遺伝子を持っていません。つまり、最初から彼の遺伝子提供者はコロニー人と同じ遺伝子を持っていたと考えられます。」
「では、コロニー人のクローンで、地球人のクローンではないと言うだけのことでは?」
「しかし、JJは、パーカーは地球人の子供だと主張しています。成人から採取した細胞のクローンではなく、地球人の赤ん坊の細胞から生まれたクローンだと言うのです。」
「では、セイヤーズの子供なのでは?」
「パーカーの方がセイヤーズより10歳年長です。」
ケンウッドは己はなんと上手い嘘つきなのだろうと思った。良心が痛んだが、この際は仕方がない。ドーム長官は政治家だ。政治家は嘘やハッタリで自分の領域を守る。
会場の中程で声が上がった。
「まさか、『死体クローン事件』の、盗まれた細胞のクローンとおっしゃりたいのですか?」
ケンウッドは重々しく頷いた。
「そうとしか、考えられません。」
場内がシーンと静まりかえった。ケンウッドは静かに言った。
「200年前に地球上で発見された、4000年前の氷浸けの細胞です。」
「これは、JJ・ベーリングが分類した配列アラインメントです。左のグループから、コロニー人、ドーム内クローン、ドーム外クローン、全て女性のものです。
ミスは一つもありません。彼女は見事に分類しました。」
場内がかすかにざわめいた。誰が見ても、その差がわからない。
次の画像が映し出された。これも配列アラインメントだ。
「これは、男性のものです。左からコロニー人、ドーマー、ドーム外の男性、それから、一番右側のグループはかなり特殊です。上がジェリー・パーカー、下がダリル・セイヤーズ・ドーマーです。」
「個人を特定したのですか?」
会場から上がった質問の声に、ケンウッドは頷いた。
「彼女は、ここに映っている配列アラインメントの主全員を特定出来ます。」
「どうやって?」
「目で見ています。それだけです。」
「信じられない!」
ケンウッドは、月にある「地球人類復活委員会」の会合で研究成果の発表を依頼された。彼は「成果とは言えないが」と断って、この「大発見」を公表したのだ。
会場内のざわめきを気にも留めずに、彼は続けた。
「彼女が言うには、ジェリー・パーカーとダリル・セイヤーズ・ドーマーは、コロニー人と同じだそうです。しかし、セイヤーズは第3グループのクローン女性から生まれた子供で、父親は第3グループに属する地球人男性です。本来ならば、父親と同じグループに入っていなければならないのです。」
「何故、コロニー人と同じゲノムを持つことになったのです?」
「彼は進化型1級遺伝子を母親から受け継ぎました。恐らく、その遺伝子が彼の生殖細胞を『原型』へ戻したのだと思われます。」
「『進化』ではなく、『先祖返り』?」
「私は、『修復』だと考えています。」
「セイヤーズが『修復』されているとすれば、パーカーはどうなるのです?」
「それが・・・」
ケンウッドは少し言い淀んだ。ここでハイネが語った「真実」を明かす訳には行かない。パーカーを守らねばならないのだ。パーカーが宇宙へ連れて行かれないように。
「よくわからんのです。」
「わからない?」
「彼は、サタジット・ラムジーが製造したクローンです。遺伝子管理局が押収したラムジーの情報チップを解析したところ、パーカーの人工子宮内での成長過程が記録されている項がありました。それによると、ラムジーは胚が細胞分裂を開始してから一度も遺伝子に手を加えていない。だが、彼は進化型遺伝子を持っていません。つまり、最初から彼の遺伝子提供者はコロニー人と同じ遺伝子を持っていたと考えられます。」
「では、コロニー人のクローンで、地球人のクローンではないと言うだけのことでは?」
「しかし、JJは、パーカーは地球人の子供だと主張しています。成人から採取した細胞のクローンではなく、地球人の赤ん坊の細胞から生まれたクローンだと言うのです。」
「では、セイヤーズの子供なのでは?」
「パーカーの方がセイヤーズより10歳年長です。」
ケンウッドは己はなんと上手い嘘つきなのだろうと思った。良心が痛んだが、この際は仕方がない。ドーム長官は政治家だ。政治家は嘘やハッタリで自分の領域を守る。
会場の中程で声が上がった。
「まさか、『死体クローン事件』の、盗まれた細胞のクローンとおっしゃりたいのですか?」
ケンウッドは重々しく頷いた。
「そうとしか、考えられません。」
場内がシーンと静まりかえった。ケンウッドは静かに言った。
「200年前に地球上で発見された、4000年前の氷浸けの細胞です。」