2019年1月31日木曜日

暗雲 2 1 - 10

 「去年の初め頃だ。」

とジェリー・パーカーがぼそぼそと語り始めた。

「トーラス野生動物保護団体の理事の1人で医師協会の会長であるマイケル・ハーヴェイに博士が講義をしたことがあった。移植の話だったが、俺は理解出来ても興味がなかったから、部屋の中で資料の整理をしていただけだ。他人の体に入ってまでして長生きしたいなんて、思わないからな。でもハーヴェイは熱心に聞いていた。記録も採っただろう。
 博士の理論は、脳移植を希望する人間自身の細胞でクローンを創り、そこに入れると言うものだ。これなら遺伝情報は同じだし、拒否反応も極力抑えられる。ただ、移植可能な大きさに成長する迄クローンは人間として暮らす訳だから、結局のところ殺人になる。
それにそれ迄に希望者が生きていられるかって問題もあるだろう? 希望しているのは、爺に婆ばかりだからな。」
「ラムジー自身は、その理論を支持していた訳ではないのか?」
「博士は俺に、『馬鹿どもの夢だ』と言っていたよ。」

するとレインが口をはさんだ。

「爺様は、俺の体に入る想像をしていたぞ。」

 パーカーは彼の能力をまだ知らない。横目で彼を見て、

「想像だけだろ? 想像だけなら、誰でもいくらでもするさ。」

と言った。レインは反論しなかった。ここで議論することではないと思ったし、あの時に感じた恐怖をパーカーは理解しないだろう。
 ハイネが尋ねた。

「FOKのリーダー、ニコライ・グリソムとハーヴェイに接点はあったのだろうか?」
「さあね・・・」

 パーカーは肩をすくめた。

「俺はニューシカゴ郊外の農場で暮らしていたから、セント・アイブスのことなんか知らないってことを覚えておいてくれないか? トーラス野生動物保護団体のことなんか、俺の知ったこっちゃないんだ。」

 レインが自身の知識を出して来た。

「グリソムは16歳で医学博士になっています。実際に仕事をした記録はありませんが、大学でハーヴェイと出遭った可能性が0とは言い切れないでしょう。」

 その時、ハイネが立体画像を消したので、セイヤーズがやっと正面を向いた。

「局長、クローンの収容施設は警備上の都合で一般には所在を明かしていないはずです。
FOKは何処から情報を得ているのか、調べてみても良いですか?」
「いいとも。」

 ハイネは彼をジロリと見た。

「ドームのマザーコンピュータに侵入出来る人間が君だけとは限らんからな。」