2016年10月9日日曜日

出張所 17

 ライサンダーはクロエルと目を合わせた。彼は首を振った。行きたくない。そう告げたつもりだ。クロエルは表情では反応しなかったが、端末に返信文を入れて彼に見せた。

ーー無理

そして送信した。数秒後に速攻で返信が来た。

ーー努力せよ

「はいはい。」

クロエルは呟いて、返信せずにポケットに端末をしまった。誰から? とダリルが尋ねた。クロエルは、局長、と答えた。

「僕ちゃん、1度にたくさんの仕事を言いつけられてもこなせないんだよね。」

 彼は財布を出して机のコンピュータの横に置いた。 そしてダリルのそばに行った。

「捜索にリュックも連れて行きます?」
「連れて行かないと、拗ねるだろう。ここは彼の街だ。」
「でしょうね。小言を聞かされるのは御免だから、彼に運転させましょう。」

 ダリルは指についたドーナツの脂を洗い流しにトイレに行った。鏡にひょうきんな服装の男が映っているのを眺め、これからどんな人生が自身と息子に待っているのだろうとふと思った。息子は17歳で、もうすぐ成人の市民権を取得出来る18歳の誕生日が来る。18歳になれば、例え違法クローンでもドームは市民権を与える。婚姻許可は与えられなくても、その他の権利は一般人と変わらないのだ。
 
 だが息子にも恋をする権利はあるはずだ。

 トイレから出ると、ライサンダーはまだクロエルにくっついていた。どうやらおちゃらけ南米男がすっかり気に入ったみたいで懐いてしまっている。ポールにもあんな風に懐いてくれると嬉しいのだが・・・
 階下でリュック・ニュカネンが車の用意が出来たと怒鳴っていた。