2016年10月12日水曜日

リンゼイ博士 7

 リュック・ニュカネンの端末に着信があった。ニュカネンが出ると出張所の部下からで、彼は暫く部下と何やら話をしていた。
 またしても足止めを食ったダリル・セイヤーズ・ドーマーはドアに手を掛けた。ニュカネンが横目で見ていて、空いている手でロックを掛ける。

「おい・・・」
「勝手に出るな。」

 ニュカネンは早口で部下に指示を与えてから電話を終えた。

「悪いがこれから出張所に帰る。」
「なにぃ?」
「レインのチームが押収品の仕分けを終えたので、ローズタウンの警察署に運んでそのまま空港からドームに帰投する。」
「勝手に行かせろよ。」
「ローズタウン警察から、今朝砂漠で発見された身元不明の死体のDNA鑑定依頼が来ている。行かねばならん。」
「だったら、君が行け。私は残る。」
「駄目だ。ここにいる間は、私の指示に従え。私は君の安全に関してドームから必ず守れと命令されている。私の立場も考えてくれ!」

突然、クロエルがドアをドンッと手で叩いた。

「いい加減にしろ、リュック・ニュカネン! セイヤーズは君より遙かに用心深いし、経験も積んでいる。君とつるんで歩くより、彼1人で捜査させた方がずっとスムーズに仕事が捗る。それに何か忘れていないか? セイヤーズは今回僕のサポート役だ。僕が指示することに彼は従う。君の指示ではない、僕の指示だ。僕はこれからトーラス野生動物保護団体ビルへ行く。セイヤーズは僕に同行する。君は出張所に帰って君の仕事をやれ。」

 中米班チーフ、クロエル・ドーマーの剣幕にニュカネンがたじろいだ。間近に睨み付けられ、彼はドアを解錠した。
 クロエルが先に外に出て、ダリルも降りた。彼は憮然として運転席に座っているニュカネンを宥めた。

「敵陣に乗り込む訳じゃないから、先方の様子を見て帰るよ。この街での君の顔を潰したりしないから。」

 ニュカネンが何か言い返そうとした時、運転席側に移動したクロエルが彼に声を掛けた。

「あのさ、言いにくいんだけど、僕ちゃん財布忘れたの。昼飯代だけでも貸してくんない?」