2016年10月1日土曜日

出張所 3

 ケイジャン料理の店はすぐ見つかった。開店直後だったので窓際の庭に面した席に案内された。ライサンダーとJJは初めての経験だったので、クロエル・ドーマーにメニューを選んでもらった。 ライサンダーはクロエルと同じキャットフィッシュのソテー、JJはシュリンプクレオール、ダリルはガンボ。

「レインが戻ったらすぐにローズタウンに送って行こう。」

とクロエルが言った。

「気が付いただろ? 彼はもう一杯一杯だ。あれ以上無理をさせると、僕等が長官に叱られるよ。」
「そうだな。逆らえば、麻酔を打ってやれ。」
「ローズタウンに何があるの?」
「空港。」

クロエルはJJを見た。

「君も飛行機に乗る?」

JJが頷いた。ライサンダーがドームに行くと言う考えは誰も持っていないらしい。ライサンダーは父親を見た。息子の今後について何か言ってくれないのか、と目で催促したが、ダリルは無視して、いきなり、

「このガンボって美味いなぁ。どうやって作るんだろ?」

と言うなり、席を立って厨房の方へ行ってしまった。ライサンダーは深い溜息をついた。

「また親父の新し物好きが始まった・・・」
「いつもああなの?」

とクロエルが興味津々で尋ねた。

「うん。自分で作れそうだと思ったら、すぐ作り方を教えてもらいに行っちゃうんだ。」
「いいじゃん、美味い物を作ってくれるんだろ?」
「でも、満足出来る物が完成するまで毎日同じ料理が続くんだ。」
「そりゃ、災難だ。」

クロエルが笑うと、JJも声をたてずに笑った。ライサンダーも笑いながら、でも俺はガンボを食べられないだろうな、と思った。ダリルが次に料理をするのはドームの中なのだろうか?
 すると突然、クロエルが彼に尋ねた。

「君はお母さんはいたの?」
 
 ライサンダーはどきりとした。ダリルはまだ仲間に息子がクローンだと明かしていないのだ。彼が返事に詰まったのに気が付かないふりをして、クロエルが言った。

「僕ちゃんは母親いないの。父親もいないんだ。」

え? とライサンダーとJJが彼の顔を見た。クロエルが苦笑いした。

「あー、生物学的にはいるんだろうけど。でも他のドーマーたちと違って、母親のお腹の中で育ったんじゃないんだな。」