その夜、結局ダリルはポールとベッドを共にすることを拒んだ。アーシュラ・R・L・フラネリーのことをポールに悟られたくなかったのだ。ポールはがっかりしていたが、怒ることはなく、素直に寝てくれた。やはりまだ疲れが残っていたのだ。ダリルは予備の毛布と枕で狭いリビングの長椅子で寝た。
翌朝、目を覚ますと、ポールは既に起きて何処かに出かけていた。出動するとは聞いていなかったので、ドーム内に居るはずだ。果たして端末に伝言が入っていた。
ドーマー用の一般食堂で朝食、とあった。ダリルは顔を洗い、昨夜帰り道で立ち寄った店で買ってもらった普段着に着替えた。
部屋を出ると、2人の執政官と廊下で出くわした。ドーマーのアパートに執政官が現れるのは滅多にないことだ。誰かに招かれた場合に限るはずだが。
彼等もダリルがM−377から出て来たのを見て、ギョッとした様子だった。
「その部屋は、ポール・レイン・ドーマーの部屋のはずだが?」
「そうです。」
とダリル。ポールのファンクラブだな、と察しがついた。そうだとしても、執政官がドーマーの居住区に無闇に立ち入って良い訳がない。
「彼の部屋で何をしていたんだ?」
「居候です。夕べから、遺伝子管理局の局長から命じられて、ここで寝泊まりさせてもらってます。」
「夕べから・・・?」
1人がハッと気が付いた。
「こいつ、例の脱走ドーマーだ。」
「なに・・・ポールの・・・アレか?」
ダリルはファンクラブと無駄に時間を過ごしたくなかったので、ドアを閉めて、歩き始めた。
「そこで待っていても、ポールは出て来ませんよ。私が目覚めた時にはもう居なかったから。」
ファンクラブの執政官は追いかけて来なかった。ダリルは記憶を削除されて覚えていないが、彼等はアナトリー・ギルが彼にうっかり手を出して鼻を折られたことを知っていた。
ダリルはのんびり歩いて食堂へ行った。昨夜とは別の場所だ。ドーマー達が大勢居て、賑やかで煩雑な場所だが、彼には18年ぶりの懐かしい場だった。
ポールは、ジョギングをしたらしくトレーニングウェア姿で、彼のチームのリーダー達と朝食を摂っていた。勿論、留守中の部下達の仕事ぶりを聞く報告会を兼ねているのだ。
ダリルがテーブルに近づくと、彼はリーダー達に紹介した。
「昨夜、局長から辞令が出た。まだ本人は知らないだろうが、俺の秘書のダリル・セイヤーズ・ドーマーだ。」
「え? 秘書ぉ?」
ダリル自身が驚いただけで、リーダー達は「宜しく」と挨拶をした。ポールが説明した。
「君は遺伝子管理局に復帰する。ただし、外にはやたらと出せないので、内勤だ。偶々俺は暫く前から秘書が必要だと思っていたので、申請したら速攻で許可が出た。今日から俺のオフィスで事務処理をやってくれ。」
「いいけど・・・」
「何だ? 文句でもあるのか?」
「いや・・・ただ、ラムゼイ殺害の捜査状況を知っておきたいと思って・・・」
ラムゼイの死は、ポールのチームにはまだ知らされていなかったらしい。ちょっとした衝撃がテーブルを囲む男達を襲った。ダリルは朝食の場にふさわしくない話題だと気が付いて、「後で詳細を話す」とその場を収めた。
ダリルが山盛りのスクランブルドエッグとベーコンを取ってテーブルに戻って来ると、妻とアパートで朝食を済ませたクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが合流していた。
「ねぇ、ちょっとこれを見てくれよ。」
クラウスが端末の画面を隣の仲間に見せた。
「今朝はこれでドーム中が持ちきりだぞ、きっと!」
「何だ、こりゃぁ?」
銘々が自身の端末を出して、クラウスが拡散した画像を覗いた。思わず失笑する者もいた。ポールも端末を出して見て、苦笑した。
「くそ、パパラッチが居たか・・・」
ダリルは隣の席の仲間に画像を見せられた。
そこには、夜の道を何かを警戒しながら歩く3人のドーマーが映し出されていた。
題して、
ーーキエフにご用心! お忍びの我らがアイドルとその恋人、おまけクロエル先生
翌朝、目を覚ますと、ポールは既に起きて何処かに出かけていた。出動するとは聞いていなかったので、ドーム内に居るはずだ。果たして端末に伝言が入っていた。
ドーマー用の一般食堂で朝食、とあった。ダリルは顔を洗い、昨夜帰り道で立ち寄った店で買ってもらった普段着に着替えた。
部屋を出ると、2人の執政官と廊下で出くわした。ドーマーのアパートに執政官が現れるのは滅多にないことだ。誰かに招かれた場合に限るはずだが。
彼等もダリルがM−377から出て来たのを見て、ギョッとした様子だった。
「その部屋は、ポール・レイン・ドーマーの部屋のはずだが?」
「そうです。」
とダリル。ポールのファンクラブだな、と察しがついた。そうだとしても、執政官がドーマーの居住区に無闇に立ち入って良い訳がない。
「彼の部屋で何をしていたんだ?」
「居候です。夕べから、遺伝子管理局の局長から命じられて、ここで寝泊まりさせてもらってます。」
「夕べから・・・?」
1人がハッと気が付いた。
「こいつ、例の脱走ドーマーだ。」
「なに・・・ポールの・・・アレか?」
ダリルはファンクラブと無駄に時間を過ごしたくなかったので、ドアを閉めて、歩き始めた。
「そこで待っていても、ポールは出て来ませんよ。私が目覚めた時にはもう居なかったから。」
ファンクラブの執政官は追いかけて来なかった。ダリルは記憶を削除されて覚えていないが、彼等はアナトリー・ギルが彼にうっかり手を出して鼻を折られたことを知っていた。
ダリルはのんびり歩いて食堂へ行った。昨夜とは別の場所だ。ドーマー達が大勢居て、賑やかで煩雑な場所だが、彼には18年ぶりの懐かしい場だった。
ポールは、ジョギングをしたらしくトレーニングウェア姿で、彼のチームのリーダー達と朝食を摂っていた。勿論、留守中の部下達の仕事ぶりを聞く報告会を兼ねているのだ。
ダリルがテーブルに近づくと、彼はリーダー達に紹介した。
「昨夜、局長から辞令が出た。まだ本人は知らないだろうが、俺の秘書のダリル・セイヤーズ・ドーマーだ。」
「え? 秘書ぉ?」
ダリル自身が驚いただけで、リーダー達は「宜しく」と挨拶をした。ポールが説明した。
「君は遺伝子管理局に復帰する。ただし、外にはやたらと出せないので、内勤だ。偶々俺は暫く前から秘書が必要だと思っていたので、申請したら速攻で許可が出た。今日から俺のオフィスで事務処理をやってくれ。」
「いいけど・・・」
「何だ? 文句でもあるのか?」
「いや・・・ただ、ラムゼイ殺害の捜査状況を知っておきたいと思って・・・」
ラムゼイの死は、ポールのチームにはまだ知らされていなかったらしい。ちょっとした衝撃がテーブルを囲む男達を襲った。ダリルは朝食の場にふさわしくない話題だと気が付いて、「後で詳細を話す」とその場を収めた。
ダリルが山盛りのスクランブルドエッグとベーコンを取ってテーブルに戻って来ると、妻とアパートで朝食を済ませたクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが合流していた。
「ねぇ、ちょっとこれを見てくれよ。」
クラウスが端末の画面を隣の仲間に見せた。
「今朝はこれでドーム中が持ちきりだぞ、きっと!」
「何だ、こりゃぁ?」
銘々が自身の端末を出して、クラウスが拡散した画像を覗いた。思わず失笑する者もいた。ポールも端末を出して見て、苦笑した。
「くそ、パパラッチが居たか・・・」
ダリルは隣の席の仲間に画像を見せられた。
そこには、夜の道を何かを警戒しながら歩く3人のドーマーが映し出されていた。
題して、
ーーキエフにご用心! お忍びの我らがアイドルとその恋人、おまけクロエル先生