2016年10月30日日曜日

新生活 19

 新しいアパートの部屋番はC−202だった。ジェリー・パーカーの告白内容を記録してケンウッド長官とハイネ局長に報告してから、ダリルとポールは新居に入った。ポールはラムゼイの手の感触を思い出してしまい、食欲を失ったので、夕食はテイクアウトの中華料理だ。
 運送班は、2人の荷物を3つのコンテナに詰めて居間に置いて去った後だった。寝具と衣料品と書斎にあった資料、台所用品数点だけだ。それらを収めるべき場所に収める作業をすると、やっとポールの食欲も戻って来た。
 ダリルは寝室が気になった。大小2部屋あって、大きな部屋はツインベッド、小さい方はシングルだ。2人用なのに、何故ベッドが3台もあるのか謎だが、ダブルベッドの部屋にも小部屋があってベッドがあると言うのだから、子供部屋を想定しているのだろうか。しかしドーマーは子育てしないのに。

「小さい方は客間だろう。」

とポールがお茶を淹れながら言った。料理に合わせて中国茶を淹れている。

「客って・・・泊まるような客がいるのか? ドームの中に住んでいる人間しかいないのに?」
「酔っ払えばドアの外に出るのも億劫な人間がいるだろうが。」
「すると、あの部屋は酔っ払い用なのか?」
「君もいちいちこだわるヤツだな。」

 ポールは春巻きに辛子をたっぷりと付けた。それをダリルの皿に載せた。

「喧嘩した時に、君が使えば良いじゃないか。」
「何故私が追い出されるんだ?」
「俺が上司だからだ。」

 ダリルは辛子を春巻きから取り除きながら、よくわからん理屈だ、と呟いた。

「それじゃ、こうしよう。」

 食事が終わる頃にポールが提案した。

「どちらかが女性を連れて来たら、残った方が小さい部屋を使う。」
「・・・よし、それで妥協しよう。」
「寝る前に音楽を聴く趣味はなかったな?」
「ない。」
「宜しい。では、今夜は一緒に寝よう。」

 ちょっと待て・・・

「ちょっと待て、それは別々のベッドで、と言う意味だな?」
「どう言う意味だ?」
「どう言う意味って・・・」
「今夜も拒むのか?」

 ダリルは溜息をついた。正直に言った。

「君が嫌で拒むんじゃない。今はちょっと心を読まれたくないんだ。」
「俺に秘密を持っているのか?」
「正直に言えば、イエスだ。だが、そのうちに秘密でなくなる。それまで待ってくれないか? 私はその秘密を押さえ込んだまま君と愛し合える自信がないんだ。」

そして優しく言った。

「私だって君を抱きたいんだよ。」
 
ポールはじっと彼を見つめた。メーカーから救出された日の夜、ローズタウンでダリルは彼の額にキスをしようとした。彼が拒み、手の甲にキスをさせた。あれ以来、ダリルは彼に触らせない。怒っているのかと思ったが、そうではなかった。
セント・アイブスで何かがあったのだ。時々ダリルが考え込んでいるのは、息子のことを心配しているのだとばかり想っていたが、そうではないらしい。

「だったら早く問題を解決してくれ。さもないと、また無理矢理やるぞ。」