2016年10月20日木曜日

リンゼイ博士 20

「マダムは、リンゼイ博士と最後に会われたのは何時でしょうか?」
「実際に会ったのは、一月前です。」
「では、今回の連絡は・・・」
「ビューフォード氏を通しました。リンゼイ博士の窓口はビューフォード氏が務めていたのです。」
「今朝、トーラス野生動物保護団体ビルに来ておられましたが、リンゼイ博士が入室する前に部屋から出て行かれましたね?」
「友達が逮捕される場面に居合わせたくありませんでしたし、モスコヴィッツや他の理事達からも、私はあそこに居るべきではないと忠告を受けていました。私の立場を考えて頂いたのだと思います。」

 ダリルは納得した。アーシュラはラムゼイに直接会った訳ではなく、重力サスペンダーに細工する必要もない。

「今回の会議の目的は何だったのですか?」

 すると、アーシュラは窓の外を見たまま溜息をついた。

「本当は、会議などありませんでした。3日前の夜に、ビューフォード氏から連絡があり、リンゼイ博士が私に会いたがっていると告げたのです。」
「リンゼイが? 理由は聞かれましたか?」
「私に会わせたい人を連れて来ると言っていました。」

 3日前と言えば、ラムゼイ博士がポール・レイン・ドーマーを捕らえた日だ。ラムゼイはポールとアーシュラの関係に気が付いたのだろうか? 確かにポールは、アーシュラの夫の若い頃に非常によく似ている。あの美貌を忘れるのは難しい。それにラムゼイは元執政官だった。ドーマーの命名方法のルールを知っているのだ。ポール・フラネリーの息子はポールと言う名だ。もし、ラムゼイがポールの出生の秘密を知ったとして、アーシュラに会わせる目的は何だったのだろう? 大統領の弟を人質に取っていると知らせる為か?人質を取って、何を要求したかったのか?
 考え込んだダリルをアーシュラが眺めていた。

「リンゼイ博士・・・いえ、ラムゼイが私に会わせたかった人物は誰だったのでしょう、ミスター・セイヤーズ?」

 ダリルは真実を言うつもりはなかった。年老いた母親を心配させるべきではない。

「私には見当がつきません。しかし、ミズ・フラネリー、どうかトーラス野生動物保護団体とは暫く距離を置いて頂けませんか? ラムゼイは誰かに殺害されたのです。」