ケンウッド長官は、端末でポール・レイン・ドーマーの話を再生して幹部達に聞かせていた。レインは慣れているので説明は簡潔で分かりやすくこなした。ただ、ラムゼイ博士に顔を触られた時に感じた恐怖だけは上手く表現出来なくて言葉に困っていた。
「要するに、ラムゼイの手から何と言うか、欲望とか邪な感情が大量に流れて来て、彼はパニックに陥ったと解釈して宜しいのでは?」
とある幹部が発言した。
「言葉で表現出来ないラムゼイの思考の根源みたいなものでしょう。」
と別の幹部。テレパスが他人の感情をどんな形で受信するのか、能力のない人間には理解出来ない。幹部達はただ、普段冷静沈着なポール・レイン・ドーマーが自ら意識をシャットダウンして自己を守らなければならなかった事態が起きた、と言うことだけを理解した。
「これだけでは、ラムゼイが何を企んでいたのか、わかりませんね。レインにもわかっていないのでしょう?」
「そうだ。だからレインは当時の心理状態が正常でなかったことを悔やんでいる。分析出来るほど冷静でいるべきだったと。」
「自分を責めるなと言ってやって下さい。」
「それにしても、ラムゼイの秘書に関する証言は興味深いですね。パーカーと言う男はクローンなのでしょう? どうして彼に触られた時、宇宙空間のイメージをレインは感じたんです?」
「それは、パーカー自身に聞いた方が良いかも知れないな。」
「彼は今ここにいるんですよね?」
「クローン観察棟で監禁状態だ。逮捕される直前に自殺を図ったので、薬で頭をぼんやりさせて危険な行動を取らないようにしている。」
ケンウッド長官は幹部達を見回した。
「彼の細胞は私達と変わらない。むしろ純粋な地球人のものと言っても良い。今DNAを分析しているが、彼のオリジナルの人間はまだ不明だ。」
「人種は?」
「わからない。」
「混血と言うことですか? コロニー人の様に?」
「彼は地球人だ。人種が混ざった地域の人間のクローンと思われるが、ラムゼイは遺伝子組み換えも行っていたから、特定困難だ。」
「遺伝子組み換えと言えば、ベーリングの娘はどうしています?」
この問いには、ラナ・ゴーン副長官が答えた。
「JJは健康診断では異常なし。DNAを分析しましたが、今のところ普通の人間と変わりありません。ただ、彼女は声を出せないので、脳波翻訳機を介して会話する必要があります。こめかみに装着する端子の感触にまだ馴染めなくて落ち着かないようです。
もう暫く様子を見てから、徐々に研究に協力してもらうことになるでしょう。」
彼女は、JJがポール・レイン・ドーマーに会いたがっていることを敢えて言わずにおいた。少女は機械を通さずに話しが出来るポールがお気に入りなのだ。だがポールは子供と遊んでいる暇などないし、彼の取り巻きが少女の存在を疎ましく思うだろう。
「ところで、ハイネ局長・・・」
ケンウッド長官は、会議室の末席に座っている遺伝子管理局の長に話しかけた。この会議の参加者では唯一人のドーマーだ。
「管理局は、何時になったらセイヤーズを返してくれるのかな? レインが戻ったのだから、もうセイヤーズもドームに帰ってきているはずだが?」
室内の注目が自分に集まったことを意識したローガン・ハイネ・ドーマーはしらっと答えた。
「セイヤーズは仕事熱心ですからね。ラムゼイ逮捕まで頑張るそうですよ。アレは集中出来る物事に当たると徹底的にやらんと気が済まんのです。」
「また逃げたりしないか?」
「しません。監視を付けています。」
「誰だ?」
「クロエル・ドーマーです。」
コロニー人の間からブーイングが起きた。
「最悪のコンビじゃないか! クロエルはセイヤーズより自由奔放だぞ! 鎖を外したら何処へ行くかわからん狼みたいな男だ。」
「だからと言って、駆け落ちなんかしませんよ。」
ハイネの言葉に、ラナ・ゴーンがプッと吹き出した。
「クロエルは大人ですわ。ちゃんと自身の立場をわきまえています。必ずセイヤーズを連れて帰って来ます。」
「そう願っている。」
とケンウッド。
「私はレインから苦情を訴えられたんだ。18年かけて見つけ出し、やっと逮捕した脱走者を一月もたたないうちに外へ出すとは何事か、とね。」
「要するに、ラムゼイの手から何と言うか、欲望とか邪な感情が大量に流れて来て、彼はパニックに陥ったと解釈して宜しいのでは?」
とある幹部が発言した。
「言葉で表現出来ないラムゼイの思考の根源みたいなものでしょう。」
と別の幹部。テレパスが他人の感情をどんな形で受信するのか、能力のない人間には理解出来ない。幹部達はただ、普段冷静沈着なポール・レイン・ドーマーが自ら意識をシャットダウンして自己を守らなければならなかった事態が起きた、と言うことだけを理解した。
「これだけでは、ラムゼイが何を企んでいたのか、わかりませんね。レインにもわかっていないのでしょう?」
「そうだ。だからレインは当時の心理状態が正常でなかったことを悔やんでいる。分析出来るほど冷静でいるべきだったと。」
「自分を責めるなと言ってやって下さい。」
「それにしても、ラムゼイの秘書に関する証言は興味深いですね。パーカーと言う男はクローンなのでしょう? どうして彼に触られた時、宇宙空間のイメージをレインは感じたんです?」
「それは、パーカー自身に聞いた方が良いかも知れないな。」
「彼は今ここにいるんですよね?」
「クローン観察棟で監禁状態だ。逮捕される直前に自殺を図ったので、薬で頭をぼんやりさせて危険な行動を取らないようにしている。」
ケンウッド長官は幹部達を見回した。
「彼の細胞は私達と変わらない。むしろ純粋な地球人のものと言っても良い。今DNAを分析しているが、彼のオリジナルの人間はまだ不明だ。」
「人種は?」
「わからない。」
「混血と言うことですか? コロニー人の様に?」
「彼は地球人だ。人種が混ざった地域の人間のクローンと思われるが、ラムゼイは遺伝子組み換えも行っていたから、特定困難だ。」
「遺伝子組み換えと言えば、ベーリングの娘はどうしています?」
この問いには、ラナ・ゴーン副長官が答えた。
「JJは健康診断では異常なし。DNAを分析しましたが、今のところ普通の人間と変わりありません。ただ、彼女は声を出せないので、脳波翻訳機を介して会話する必要があります。こめかみに装着する端子の感触にまだ馴染めなくて落ち着かないようです。
もう暫く様子を見てから、徐々に研究に協力してもらうことになるでしょう。」
彼女は、JJがポール・レイン・ドーマーに会いたがっていることを敢えて言わずにおいた。少女は機械を通さずに話しが出来るポールがお気に入りなのだ。だがポールは子供と遊んでいる暇などないし、彼の取り巻きが少女の存在を疎ましく思うだろう。
「ところで、ハイネ局長・・・」
ケンウッド長官は、会議室の末席に座っている遺伝子管理局の長に話しかけた。この会議の参加者では唯一人のドーマーだ。
「管理局は、何時になったらセイヤーズを返してくれるのかな? レインが戻ったのだから、もうセイヤーズもドームに帰ってきているはずだが?」
室内の注目が自分に集まったことを意識したローガン・ハイネ・ドーマーはしらっと答えた。
「セイヤーズは仕事熱心ですからね。ラムゼイ逮捕まで頑張るそうですよ。アレは集中出来る物事に当たると徹底的にやらんと気が済まんのです。」
「また逃げたりしないか?」
「しません。監視を付けています。」
「誰だ?」
「クロエル・ドーマーです。」
コロニー人の間からブーイングが起きた。
「最悪のコンビじゃないか! クロエルはセイヤーズより自由奔放だぞ! 鎖を外したら何処へ行くかわからん狼みたいな男だ。」
「だからと言って、駆け落ちなんかしませんよ。」
ハイネの言葉に、ラナ・ゴーンがプッと吹き出した。
「クロエルは大人ですわ。ちゃんと自身の立場をわきまえています。必ずセイヤーズを連れて帰って来ます。」
「そう願っている。」
とケンウッド。
「私はレインから苦情を訴えられたんだ。18年かけて見つけ出し、やっと逮捕した脱走者を一月もたたないうちに外へ出すとは何事か、とね。」