2016年10月10日月曜日

リンゼイ博士 3

 セント・アイブス医大総合本部に到着すると、駐車場に乗り入れた車の中でリュック・ニュカネンはエンジンを切って、座ったまま考え込んだ。ダリル・セイヤーズ・ドーマーとクロエル・ドーマーはしびれを切らして車外へ出ようとした。ニュカネンはいきなりドアをロックした。

「勝手に出るな。」
「出るくらい良いだろう? 遠くへは行かないよ。」
「駄目だ。私が許可する迄動くな。」
「何を考え込んでいるんです?」

 クロエルの質問にニュカネンが2人を見比べた。

「どっちを連れて行くか迷っているんだ。」
「はぁ?」
「両名共は駄目なのか?」
「連れて行くのは1人だけだ。」
「どっちでも良いじゃん。」
「だから考えている。クロエルは目立ちすぎる。印象に残りすぎる。」
「潜入捜査じゃないんだから、良いでしょ?」
「私は何が問題なんだ?」
「服装が可笑しい。」
「それだけか?」
「遺伝子管理局の品位を疑われる。」
「僕ちゃんのコーディネートにいちゃもん付ける?」

 ダリルは外にいる学生たちがこっちを見ているのに気が付いた。絶対に怪しまれている・・・

「私が残るから、クロエルを連れて行けよ。名簿を見せてもらうだけだろう? クロエルはパラパラめくって全部記憶するんだから、適役だ。」

 ダリルの提案にやっとニュカネンは決意した。車から降りる時に、ダリルに、ドアはロックしろ、知らない人が来ても窓を開けるな、と子供に言い聞かせるみたいに指示した。
クロエルがニュカネンの後ろで顔をしかめて見せた。
 ニュカネンとクロエルが学舎に入って行くと、ダリルは端末を出した。出張所に電話して、重力サスペンダー業者の通話記録を尋ねると、業者がトーラス野生動物保護団体と言う処に電話を掛けたと言う答えが返ってきた。時刻はダリルが店を出て5分後だ。

「拙いですよ。」

と職員が言った。

「この団体は政財界の著名人が大勢会員になっています。フラネリー大統領の母親も理事を務めている由緒正しいボランティア団体です。こんな組織にラムゼイが隠れているとは思えません。」
「だが、スミスだかウォーリーだか知らないが、店主は私がラムゼイのサスペンダーの型番を知っていたので、誰かに連絡した。その団体にラムゼイのシンパか繋がりのある人物が居るに違いない。」

 どうやってセレブたちと接触すれば良いのだろうか? ダリルは考え込んだ。こんな時、ポール・レイン・ドーマーなら捜査相手と握手するだけで事足りるだろうな、と思いながら。